株式買取請求権のための通知・公告の省略
昨日のQ2で「事業譲渡や組織再編において,誰も反対しないときに反対株主買取請求権の機会付与のための通知・公告を省略できませんか。」という質問に対し、できないと答えたところ、内藤さんから、
「省略することはできないと解される場合であっても、「20日前」という期間を短縮することは認められると考えます。
旧商法下の新株発行においても、新株発行事項の通知又は公告に関する2週間前という期間は、総株主の同意により短縮可能、というのが登記実務でした。この点は、会社法においても同様に解されているようです(「論点解説」201頁。ただし、「不要」ではなく、「期間の短縮が可能」が正しいと思います。)。」
というコメントを頂きました。
この問は、頻出問題であり、微妙なものを含んでいるので、今日は少し深掘りします。
内藤さんのご指摘どおり、旧商法下の新株発行においては、新株発行事項の通知又は公告について2週間前という期間が守られていなくても、総株主の同意があれば、登記の申請は受理されました。
内藤さんのコメントは、これを反対株主買取請求権の通知・公告に広げようというものです。
私も、実質において、その見解を支持したいところではありますが、昨日も述べたとおり、明文なく省略を許してよいかというと躊躇を覚えます。
これは、新株発行に関する旧商法上の登記実務(会社法でも同じ実務がとられるはずです)が認められていた理由を考えると、分かります。
私の記憶に間違いがなければ、新株発行についての当該登記実務は、相株主の同意があれば
「2週間前という期間を守らなくても適法である」又は「通知・公告しなくても適法である」
というものではなかったはずです。
ご承知のように、新株は、一度、発行されれば、新株発行無効の訴えの認容判決が確定するまでは、有効であり、しかも、当該無効事由は、
①新株発行の差し止めの裁判がされたにもかかわらず、これを無視して発行した場合
又は
②新株発行についての通知・公告がなく、かつ、差し止め事由がある場合
等の場合に限定されています。
前述の登記実務は、この新株発行無効事由に着眼して、
「適法な通知・公告がなくても、新株発行について総株主が同意し、差止権が放棄されたのだから、新株発行の無効事由は存在しない。したがって、登記も受理せざるをえない。」
という理屈で、登記を受理していたのだと思います。
千問の道標Q278は、それをもう少し強気に言い換えているのですが、発想としては同じ発想です。
この理屈が、反対株主買取請求権の機会付与のための通知・公告について、応用できるでしょうか。
組織再編にも無効の訴えがあること、無効事由が法定されていないことは、新株発行の場合と同じですが、組織再編については差し止めの訴えがないので、新株発行と同じ基盤に立つことはできません。
また、新設型組織再編の場合には、登記が効力発生要件となっているので、新株発行のときのように「既に株式が発行され、かつ、無効事由がないのだから、登記せざるをえない」というような状況にもありません。
さらに、反対株主買取請求権の機会付与のための通知・公告を怠ったことが組織再編の無効事由になるかどうかについて、判例が固まれば、その判例に沿った解釈をすることもできますが、残念ながら、そういう判例もありません。
個人的には、総株主が同意していれば、反対株主買取請求権の通知・公告の意味はないので、その瑕疵は、無効事由にならないと思いますし、吸収型組織再編は、効力発生日に効力が発するので、少なくとも、そこは、新株発行と同視できるのではないかとも思うのですが、いかんせん隙の多い立論であるため、現段階では、そのような結論を採る勇気がありません。
ですから、心情的には、ikさんや内藤さんにエールを送りつつも、なかなか難しいですねという玉虫色の発言になってしまい、昨日の記事で、威勢良く「玉虫色のことは言わない」というようなことを言ってしまったことをやや後悔しています(笑)。
(質問コーナー)
Q1
取締役会決議省略についてお聞きします。
決議省略の場合も、議事録作成を義務づけられており、書面で作成する場合、法369条3項によれば、「出席した」取締役及び監査役の署名又は記名押印を要するとされます。
しかし書面や電子メールで同意された場合、出席者はいません。この場合は議事録作成取締役の署名か記名押印があればよいのですか?
また同意の電子メールは、プリントアウトしたものを備置するとしてもよいのでしょうか?
Posted by minash at 2006年07月23日 21:04
A1
頻出ですが、決議省略の場合には、出席した取締役は誰もいませんので、署名は不要です。
電子メールで同意した場合には電子メールを、電子メールをプリントアウトした書面で同意した場合には、その書面を備置するのが原則であり、後者については、E文書法の適用があります。
Q2
「債権者の信頼」についてですが,会社法の下では,株式会社の債権者は株式会社の財産のみを引当とする(104条)ので,見せ金によって株式会社の財産的基礎が害された場合,債権者は債権を回収することが難しくなると思うのですが,ここにあるはずの債権者の信頼を「債権者の信頼」と呼びました。
Posted by ヨボヨボ at 2006年07月23日 22:02
A2
債権者の債権回収が困難になることと、債権者の信頼とは、やや意味が違います。
債権者の債権回収を考えると、会社財産が多ければ多いほどいいでしょうが、会社の規模は、本来、会社債権者が口出しできないところなので、会社法でいう債権者の信頼は、計算書類や登記上の資本金に水増しがあるかどうかという点から判断すべきです。
そうすると、昨日述べたとおり、有効説に立つと、払込みに伴い資本金が増加するかわりに、代表取締役に対する債権が資産に立つし、無効説だと、見せ金分は資本金が増加しないかわりに、資産にもならないというだけで、債権者の信頼の点では変わりありません。
有効説に対して代表取締役に対する債権は、無価値な場合があるから、債権者の信頼を害するという立論も可能ですが、無効説でも、代取が払込が有効であることを前提として虚偽の計算書類を作成するので、会社債権者の信頼を害する点では同じです。
見せ金の有効・無効と債権者の保護は関係ないというのは、そういう意味です。
Q3
特例有限会社が通常の株式会社に移行した直後に吸収合併を行い存続会社となる場合に、債権者保護手続を行う際に示すべき「最終の事業年度に係る貸借対照表」に関する事項は、会社計算規則第199条第5号 or 第7号のいずれに該当するかについて、実務の取扱いに若干混乱が見られるようです。
私は、移行するとすぐに会社法第440条第1項の適用がある株式会社となること、また、事業年度は継続しているので「最終の事業年度」は存することから、第7号に該当すると考えていますが、「最終の事業年度はない」(第5号)として公告している例が散見されます。
Posted by 内藤卓 at 2006年07月23日 23:11
A3
特例有限会社は、株式会社であり、事業年度はありますから、7号が正しいと思います。
Q4
100問の365頁の下から3行目からの記述、「なお、株主が当該金銭の全額を支払った場合には、民法422条が類推適用され、株主は、自己が売却した株式について代位する。」についてですが、なぜ民法422条直接適用ではなく、類推適用なのでしょうか?
A4
民法422条の射程が必ずしも明確ではないことと、462条の株主の責任を損害賠償責任という性質と位置づけることが適当か疑問があることから、類推適用としています。
Q5
①存続会社等における吸収合併等の承認(795条4項)と②消滅会社等における吸収合併に承認(783条3項)・消滅会社等における新設合併等の承認(804条3項)はどちらも組織再編行為における種類株主総会ですが、①は特別決議、②は特殊決議となっています。どうしてこのような差があるのですか?
Posted by a at 2006年07月24日 02:17
A5
①は、存続会社等における承認ですから、その株主の株式が譲渡制限株式に変わることはありません。②は、消滅会社の譲渡制限のない株式が、存続会社の譲渡制限株式に変わる場合ですから、譲渡制限の定款変更をする場合と同様、特殊決議になっています。
Q6
譲渡承認手続で,指定買取人は一部買取も可能とされてますが,これは,指定買取人500,会社500というのも可能ですか。複数の指定買取人で分担は当然可能ですよね。
会社と指定買取人の分担を認める場合,先に指定買取人が買取通知をして,その後総会で承認されなかったので会社の分はみなし承認となったら,買主は1000ほしかったのに会社の分500だけ承認となります。いらないなら買主は解除するでしょうが,このとき売主は指定買取人に500売らないといけないのでしょうか。
Posted by ik at 2006年07月24日 03:49
A6
指定買取人500、会社500という買取も可能だと思います。
後段については、売主は、譲渡承認請求の撤回ができなくなっているので、指定買取人に500売る義務を負います。
Q7
吸収分割の効力発生日と登記日が異なる場合、事後開示書面(会社法791条1項)は、いつの時点で作成すればよいのでしょうか。
会社法791条2項には、効力発生日から6箇月間事後開示書面を備え置かなければならない、と規定されているので、これによれば、効力発生日付けで事後開示書面を作成しなければならないようにも読めますが、他方、会社法施行規則189条5号によれば、登記日が記載事項となっているので、効力発生日と登記日が異なる場合、効力発生日の時点では、事後開示書面を作成することができません。どのような扱いをすればよいでしょうか。
Posted by 法務担当者 at 2006年07月24日 17:54
A7
事後開示書面は、効力発生日後遅滞なく作成しなければならないのですが、「遅滞なく」とは合理的理由がない限り、速やかにという意味です。通常、効力発生日と登記日は近接しているはずですから、登記日後に作成したとしても、「遅滞なく」作成したものと認められます。ただし、登記懈怠に陥っているような場合には、正当な理由はないので、登記日の記載ができなくても、事後開示書面の作成義務も懈怠していることになります。

見せ金について2度質問したヨボヨボです。
たった今,2日もモヤモヤしていた疑問が氷解しました!有効説と無効説とでどうなるか,というのを見比べるという作業がすこぶる不十分でした。改めてじっくり考えてみましたが,きちんと理解した上で頭を整理することができましたし,加えて,これまであまり意識をしていなかった考え方,というか視点が身につきました。
おかげさまで本当に勉強になりました。お忙しい中,丁寧にありがとうございました。お仕事がんばってください。
投稿: ヨボヨボ | 2006年7月25日 (火) 00時37分
はじめまして。様々な会社法の内容を当ブログで勉強させてもらっています。
今回、剰余金の配当に関して質問いたします。
千問Q702で、Aの2に「業務執行者は、①(鄯)および②(鄯)の場合には、欠損填補責任を負わないが、・・・」とあります。②(鄯)の方は、465条1項10号ロハなのでわかりますが、①(鄯)の方がわかりません。つまり、①(鄯)は取締役会決議で454条1項各号を定めており、定時総会でそのことを定めているのではないため、10号イに該たらないと思うのですが。よろしくお願いします。
投稿: 流れ星 | 2006年7月25日 (火) 07時38分
責任限定契約についてご照会いたします。
定款で、「社外監査役との間に任務を怠ったことによる損害賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし当該契約に基づく責任の限度額は、法令が規定する額とする。」として報酬の2年分を限度額(=最低責任限度額)とする契約は締結することが法令上可能でしょうか。
定款の「法令が規定する額」とは、427条第1項にあります「定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を…定款で定めることができる。」のことと思いますが、「あらかじめ定めた額」を決めてはいません。ご教示ください。
投稿: kiki | 2006年7月25日 (火) 17時44分
はじめまして、当ブログで会社法の勉強をさせて頂いております。ありがとうございます。
さて、株式譲渡制限規定についてお尋ねいたします。
定款で株券不発行を謳い、「当会社の発行する株式の譲渡による取得については、取締役会の承認を受けなければならない。」という譲渡制限規定を設けた会社について、認証後登記申請の段階で、「発行する」の文言削除を要したという事例を聞きました。削除するべきなのでしょうか。
また、株券不発行で株式譲渡制限規定があるのはおかしい、との意見だそうです。頭が混乱してきてます。よろしくご教示下さい。
投稿: HAMA | 2006年7月25日 (火) 18時31分
初めまして。既出の質問でしたら誘導していただければ幸いです。
法440条1項2項3項「計算書類の総会後公告」と会社計算規則164条の関係についてです。規則164条は法440条1項3項による公告ついて、個別注記事項を併せて公告することを要求していますが、なぜ法440条2項の公告については明文していないのでしょうか?これは法440条2項による公告についても、同様に個別注記事項の併記が要求されるという理解でよいのでしょうか?
ウェブ公告(法440条3項)で要求されているのに法440条2項でなぜ要求されていないのか疑問に思い、質問させて頂きました。
よろしくお願いします
投稿: 通りすがり | 2006年7月25日 (火) 22時49分
いつもこちらで勉強させていただいております。
責任限定契約などでの最低責任限度額について教えて下さい。
上の方のご質問にもある内容ですが、A社の定款に責任限定契約の定めとして「法令に定める最低責任限度額」を責任限度額として記載があります。この場合、無報酬の社外役員との責任限定契約による責任限度額は「ゼロ」ということでよいのでしょうか?
また、取引先B社から派遣された社外監査役(非常勤)Cについて、A社が役員Cに直接支払っている報酬はゼロですが、「給与負担金」をB社に支払っています(CはB社職員として給与を受け取っています)。
この給与負担金(経営指導料等の名目とする場合も考えられますが…)については、425条の「職務執行の対価または受けるべき財産上の利益」に該当するのでしょうか。
よろしくお願いします。
投稿: 法務社員1年生 | 2006年7月26日 (水) 09時27分
葉玉先生、
株式交換でパーチェス法による場合の「その他資本剰余金」についてお尋ねします。
会社計算規則68条1項2号(ロ)(1)により、債権者保護手続をとった場合は株式交換完全親会社の増加する払込資本の内訳は、いきなり全額を「その他資本剰余金」とすることができるとされています。
では、債権者を害するおそれがないとして保護手続をとる必要のない株式交換(=交付財産が完全親会社の株式のみの場合)については、いきなり全額を「その他資本剰余金」とすることはできないのでしょうか?明文上は68条1項2号(ロ)(2)に該当し、ダメのように読めます。しかし、債権者保護手続が必要でない以上、債権者保護手続をとった場合と異なる扱いをする理由はないように思われます。質問のケースを会社計算規則68条1項2号(ロ)(1)に含めなかった理由はどのようなものですか?以上です。よろしくお願いします。
投稿: KOUKAN | 2006年7月26日 (水) 14時56分
葉玉先生、新株予約権の発行決議につきお尋ねいたします。
千問311頁のQ430によると、「親会社が子会社の取締役等に対して新株予約権を無償で発行することもできる、子会社の従業員が子会社を通じて提供した役務の対価として発行するなら取締役決議によることも可」とあります。
1. この「子会社の取締役等に対して」には「子会社の従業員に対して」も含まれますか。「子会社の顧問」はどうでしょうか。
2. 312頁の「親会社が新株予約権の公正価額に見合う便益を得ているかどうか」はどのように判定すればよいでしょうか。
3. 312頁の「親会社が債務引受する」パターンの場合、子会社は債務引受の退化を親に払う必要がありますか。
投稿: CCC | 2006年7月26日 (水) 18時22分
休眠会社のみなし解散について教えてください。最後の登記が平成13年6月の株式会社は、5年経たずに会社法施行となりましたので、会社法472条により、平成25年が、みなし解散の適用時期の年度となる、との理解でよいのでしょうか。
投稿: 難民なべ | 2006年7月26日 (水) 21時15分
株主総会が終わって早1ヶ月。会社法の荒波にもまれた脱力感もなくなり、久しぶりに質問させて頂きます。
剰余金の処分について、任意積立金を目的外で取り崩すときは総会決議が必要だと思いますが、その総会は「臨時総会」でも可能でしょうか?
具体的に申しますと、8月に臨時総会で退職慰労金の打ち切り支給を決議するとして、現在積立金が100万あり、実際の支給は30万だとします。このなかで、100−30=70万を臨時総会で処分(社外流出はなし)できますか?
仮に可能だとすると、比較的一般的な金額は一任決議ではなく、退職慰労金は30万を支給するという決議をとらないと駄目でしょうか?
ご教授下さい。
投稿: dunk | 2006年7月26日 (水) 22時32分
第319条の株主総会決議の省略に関しお伺いします。
子会社(非公開会社)の会計監査人の選任に関し、この制度
を利用しようと考えているのですが、この場合、株主が同意書を会社に提出する場合、第299条第1項の招集期間の2週間は、一切考慮する必要はなく、株主への提案と同日に株主からの同意書をもらっても問題はないと考えてよいのでしょうか?
従前この2週間という期間は、議案に関する熟慮期間の意味もあると捉えられていたと思います。この制度においては、当事者間の意思が優先し、会社・株主がともにそれでよいとなれば、そのような熟慮期間を考慮する必要はないと考えてよいのでしょうか?なお、この場合、株主の同意書の日付に各自相違があった場合、株主総会決議があったと看做される
日は最終の同意書の日にちと考えてよいのでしょうか?
投稿: R | 2006年7月26日 (水) 23時25分
このブログをさかのぼって見ていて思ったのですが、会社法下、利益剰余金を資本に組み入れることは通常できなくなったが(4/24・Q8)が、会計基準が認めるものであれば、一定の場合可能である(5/26.Q8)との理解でよろしいでしょうか?
投稿: サル頭 | 2006年8月 9日 (水) 11時13分