判決の将来効
T&A masterの7月31日号に「取締役会の配当決定権」について解説を書きました。
この記事は、私が、港区の一角でカフェのマスターとなり、おいしいコーヒーと的確なアドバイスで、悩める法務担当者を癒しましょういう設定で、重要な会社法上の問題をできるかぎり優しく解説しようという試みです。
「なぜ、そういう設定なんですか」と尋ねられると
「ノリだよ。ノリ。」
と答えるしかありません(笑)。
コンセプトとしては、法務担当者が、社長から
「おい、松本君。こういうニュースを見たんだが、これは、法律上、どうなっているんだ」
と尋ねられたときに、小難しい言葉を使わずに
「社長、それは、・・・・ということです。」
と分かりやすく説明できるようにして、社長から
「なるほど、君はよく勉強しているな。ボーナスを弾むことにしよう。」
となることを目的としています(笑)。
特に連載ということではありませんが、せっかく設定を考えて、イラストまで作ってもらったので、皆さんが「これが知りたい」ということがあれば、編集部にご要望ください。
それをネタに、また書くかもしれません。
さて「旧司法試験でがんばる」さんから、無効の訴えの確定判決の効力について質問を受けました。
「将来効と遡及的無効との違いに関する質問です。
設立無効、募集株式発行無効確認、合併無効などは将来効とされ、新株不存在確認、株主総会決議取消訴訟、株主総会決議無効確認訴訟は遡及的無効となっています。との説明です(一問一答Q213)。しかし、設立無効や合併無効、株主総会決議取消訴訟などは一般的に形成訴訟なので、この説明が合理的なのかが分かりません。
法が将来効と遡及的無効を分けた基準はどこにあるのでしょうか。」
この質問は、「形成訴訟としたものと、そうでないものの区別」の話と「将来効としたものと、そうでないもの区別」の話が混じっているので、いくつか基本的な事項を確認しながら、説明します。
まず、民法の錯誤無効と詐欺取消のことを思い出していただければ分かると思いますが、法律行為の効力を否定する方法としては
無効・・・最初から効力が生じてない。
取消・・・取消権を行使するまでは有効だが、取消権が行使されると遡及的無効となる
という2つのパターンがあります。
そして、この無効事由と取消事由の違いについては
無効事由・・・内心的効果意思が欠けている又は強行法規(公序良俗等)に違反しているから、最初から効力が生じないこととした
取消事由・・・動機に瑕疵があるが、内心的効果意思は存在するので、とりあえず効力を有することとし、取消権が時効消滅すれば、法律関係は有効なものとして確定する。
と説明されるのが通常です。
これに対し、会社の行為は、会社の意思決定手続きの強行法規性の度合いに着目し
無効事由・・・特に明文をおいていないものの、強行法規性の強い規定に違反した場合、無効事由になるとするのが通説
取消事由・・・株主総会の決議取消(内容の定款違反等)・持分会社の設立取消(設立の意思表示に取消事由がある場合等)のみ
という整理をしています。
それでは、実体法上の無効事由について、仮に、会社法が「形成訴訟」という手法を採用しなかったとしたらどうなるかというと、この場合、民法と同じように、無効事由があれば、最初から効力は生じないし、そのことをいつまでも主張することができることになります。
例えば、事業譲渡は、「無効の訴え」の対象になっていないので、株主総会の決議が欠け、相手方が悪意であるような場合には、最初から効力は生じず、無効であることを前提に、譲渡された事業の返還請求等をすることができます。
他方、会社法は、いくつかの会社の行為(設立、新株発行・資本金の減少・株主総会決議等)については、無効・取消主張について、「形成訴訟」を採用しています。
形成訴訟というのは、当該訴訟の判決の確定によって、はじめて実体法上の法律関係が形成されるという訴訟です。
この形成訴訟は、無効・取消の主張をするための特別な訴えなんだから、一見、提訴権者の保護のための制度に見えますが、実際は、その逆であり
提訴期間を制限することにより、期間経過後の無効・取消の主張を封じて、法律関係を安定させる
ところに本質があります。その意味で、民法の取消制度(取消権が時効消滅等により行使できなくなった時点で法律関係が有効なものとして確定する)と発想はよく似ており、誤解を恐れずに言えば、「無効事由」を「取消し」のように取り扱うことを可能にするのが、形成訴訟です。
このように形成訴訟の対象となると、提訴期間内に提訴しなければならないという制限がかかる分、瑕疵を主張する者にとって不利なわけで、形成訴訟の対象とするためには、その瑕疵の主張を封じても正義に反しない程度の瑕疵であるという制度上の制約がつきます。
また、形成訴訟は、その判決が将来効とされるもの(設立無効の訴え等各種無効の訴え)と、遡及的無効とされるもの(株主総会決議取消の訴え)に分類されます。
将来効は、遡及的無効とよって判決確定までに行われてきた会社の行為に広く瑕疵が生じ、法律関係の安定が害されることを防止するために認められるものです。
設立無効の訴え等形成訴訟の大部分は、法律関係の安定のために形成訴訟にしているのですから、判決の効力についても、法律関係の安定のために、将来効になっています。
ただし、株主総会決議の取消しの訴えについては、「何を」決議したのかによって、法律関係の安定の要請は変わってきます。
また、決議取消判決を「将来効」とするのでは、判決確定前に、総会決議に従って法律行為が行われている場合に、その行為の効力を否定することができなくなり、決議の取消をした意味がなくなってしまう恐れもあります。
そこで、決議取消の訴えについては、決議の効力を遡及的に無効とした上で、その決議に基づいて行われた会社の行為の効力は、別個に考えることにしたのです。
たとえば、事業譲渡の承認決議に取消事由があった場合、決議取消判決が確定すれば、「決議」は遡及的に無効となり、総会決議のないまま事業譲渡が行われたことになりますが、当該「事業譲渡」の効力については、必ずしも遡及的無効と解釈する必要はなく、例えば、民法93条類推適用によって相手方が善意の場合には、事業譲渡を有効と解することができますよね。
このように、決議取消判決に遡及効が認められているのは、取引の安全等は図るために、もうワンクッションの解釈をする余地があることも理由の一つです。
さて、以上をまとめると、会社の行為の無効・取消事由は
1 形成訴訟の対象となっていない事由
2 形成訴訟の対象となっていて、将来効である事由
3 形成訴訟の対象となっていて、将来効でない事由
の3つに分類されることになり、これを前提に、質問に答えましょう。
「旧司法試験でがんばる」さんは
「株式発行の不存在確認の訴えは、なぜ将来効ではないのですか」
と質問されていますが、それに対しては
形式的な理由は、株式発行の不存在確認の訴えは、形成訴訟ではない(上記1)から、判決の将来効を論ずる余地はない
という答えになります。
そこで、もう一歩、掘り下げて、
「なぜ株式発行の不存在確認の訴えは、形成訴訟になっていないのですか」
という質問があれば、それに対しては
株式発行の不存在は、瑕疵の程度が重大なので、提訴期間による主張制限をすべきではないから
という政策的理由をお答えすることになります。
株主総会決議無効・不存在確認の訴えや、自己株式処分不存在確認の訴え、新株予約権の不存在確認の訴えが、形成訴訟とされていないのも同じ理由です。
いいかえれば、
1 形成訴訟の対象となっていない事由・・・瑕疵が重大なので、提訴期間の制限をしない。
2 形成訴訟の対象となっていて、将来効である事由・・・瑕疵がそれほど重大ではないので、提訴期間の制限をするし、判決が確定しても法律関係の安定を優先して将来効
3 形成訴訟の対象となっていて、将来効でない事由・・・瑕疵がそれほど重大ではないので、提訴期間の制限はするが、判決が確定した場合には、判決の実効性を確保するために遡及的に無効とする。
という分類がされているのです。
(質問コーナー)
Q1
100問249頁では、取締役会決議を経ていない代表行為の効力について、民§93を類推して、相手方が「決議がないこと」につき悪意又は有過失の場合に、会社は無効主張できるとされています(最判S44・9・22)。ところで、相手方が『多額の借財』に当たることにつき悪意or有過失であることまでは不要でしょうか(いわば二重の悪意)。というのは、最判H6・1・20の調査官解説によれば、①「重要な財産の処分」にあたること、②役会決議がないこと、を要するとしているからです。これは、利益相反取引の相対的無効について、最大判S46・10・13が悪意=承認決議がなかったことのほか、利益相反取引にあたることを含めていることとも整合するように思います。どのように考えればよいのでしょうか。
Posted by ロー生 at 2006年07月31日 11:47
A1
①多額の借財であることが分からなかったため、役会決議のことにも考えが及ばなかった場合と、②多額の借財であることは知っていたが、役会決議があると誤信した場合の双方とも、保護されるべきだと思います。
多額の借財であることについて善意が必要であるということになれば、②は保護されないことになりますが、代表取締役が役会議事録を偽造して相手方に示しているような場合もあるのですから、相手方を一切保護しないというわけにはいかないでしょう。
①と②の理論構成を変えるということも難しいので、①②とも、93条類推適用にして、取締役会の決議の不存在を知らなかったことについての過失を考える上で、「多額の借財」についての認識可能性なども判断すれば十分であるように思います。
Q2
事後設立に関し、質問があります。
平成15年に、価額が資本金の20分の1を超える(ただし、純資産額の5分の1は越えない)財産を取得した場合、当時は、事後設立として、検査役の検査および株主総会の特別決議が必要です。
それに対し、会社法では、純資産額の5分の1を越えていないことから、かかる場合には、事後設立(会社法467条1項5号)にあたらないことになるはずです。
それでは、平成15年当時、検査役の検査および株主総会の特別決議を得なかった会社が、その瑕疵を治癒するためには、現時点で何かする必要があるのでしょうか?必要ないように思えるのですが、どうなんでしょうか。
また、5分の1を超える場合には、会社法の下でも、事後設立にあたりますが、その場合に、検査役の検査が不要になるのでしょうか?
Posted by aki at 2006年07月31日 12:51
A2
467条は、効力発生日の前日までに、株主総会の承認を得ることを要求しています。
したがって、事後設立の効力発生日として平成15年を定めた場合、これを会社法上、有効にする手段はありません。
瑕疵を治癒することはできませんが、改めて、当該財産を取得し直すことは可能でしょう。もう事後設立の規制にもひっかからないのではないでしょうか。
ちなみに、事後設立についての検査役の調査は、一切ありません。
Q3
質問させてください。会社法156条の自己株式取得をする際に、総株主に通知を出しますが、これは発送期日が指定されていませんで、このような指定の無い規定は常に、株主に不利益は無という理由で「いつでも」もしくは「相当な期間」と考えてよろしいのでしょうか。また、この通知に伴って譲渡しの申し込みがあった場合は、取締役会で定めた申し込み期日に売買契約が成立し、その日より、譲渡した株主は株主ではなくなると考えてよろしいでしょうか。最後に、買取価格が相当な価格よりかなり低い場合でも問題ないのでしょうか。よろしくお願いいたします。
Posted by 千佳子 at 2006年07月31日 13:12
A3
157条1項4号で申込期日を定めなければならないので、その日よりも前でなければいけませんが、期間は特に決められていません。
申込みに対し、会社が承諾すれば売買契約は成立します。ただし、株券発行会社の場合には、株券の交付がなければ、株式は移転しません。
買取価格が低くても、特に問題ありません。安いと思ったら、株主が売らなければよいだけなので。
Q4
新設分割計画の記載事項に分割会社から承継する分割会社株式に関する事項がないのはなぜですか。一部にこれは,新設分割の場合,分割会社株式の承継を認めない趣旨だと記述する文献があるのですが,もしそうだとすればその理由は何でしょうか。
A4
新設分割では、分割会社株式の承継は認められません。
理由はいくつかありますが、①通常の設立手続を行う場合に、自己株式を現物出資して設立することができないこととの平仄、②単独で新株分割をすると、本来、禁止されている子会社による親会社株式の取得を直接に作り出すことになり、濫用のおそれが高い(なお、親会社が自己の親会社株式を新設会社に承継させることは、省令で認められています)というのが主たる理由です。
Q5
消滅会社・分割会社の新株予約権者は事前備置書類の閲覧をすることができますか。債権者に入ると解釈するかどうかです。株式交換は(取得+交付の対象以外の新株予約権者も)閲覧権があり,また事前備置書類の内容からしても当然閲覧できるように思いますが,「債権者」と解してよいか若干疑義がありましたので照会いたします(登記相談調)。
Posted by ik at 2006年07月31日 16:49
A5
新株予約権者は、債権者ですので、閲覧することができます。
債権者保護手続の「債権者」ですが、新株予約権者も形式的には該当すると思います。
債権者保護手続の債権者は、必ずしも金銭債権の債権者に限られないので。
ただ、無記名新株予約権ですと「知れたる債権者」に該当しませんし、新株予約権者が異議を申し述べたとしても、資本金の減少等が新株予約権者を害するおそれはないので、会社は何もする必要はないのが普通です。
ですから、新株予約権者の保護は、新株予約権買取請求権で図られることになるでしょう。
Q6
今年の1月に有限会社を株式会社に組織変更にした会社が、会社法施行後に吸収合併を行い存続会社となる場合に、債権者保護手続を行う際に示すべき「最終の事業年度に係る貸借対照表」に関する事項は、会社計算規則第199条第5号又は第7号のいずれに該当するのでしょうか。
Posted by 司法書士補助者 at 2006年07月31日 19:54
A6
7号です。
Q7
合併や株式交換において、株主総会の承認決議よりも前に、株券提出公告・通知(会社法219条)を行う(例えば、10月1日が効力発生日の場合に、8月25日に株券提出公告・通知を行い、9月30日に株主総会を開催する)ことは可能でしょうか。株主総会の承認決議がなされていない段階で、株主に対して株券の提出を求めるのは違和感がありますが、会社法上は、このような扱いも可能という理解でよろしいでしょうか。
Posted by 組織再編実務担当者 at 2006年07月31日 20:19
A7
できます。
なお、株券は、合併の効力発生により、無効となりますが、それと同時に、合併対価の交付請求権を表彰する有価証券になるので、株券提出の期限までに株券を提出しなくても、株主が害されることはほとんど考えられません。


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