株式買取請求時の価格決定
某先生から、
「株式買取請求権を行使した場合の、価格決定の申立事件(非訟事件)について、旧非訟事件手続法132条ノ6・133条ノ2第3号の必要的併合が会社法でなくなったのは、なぜですか?」
と質問されました。
マイナーな問題ではありますが、この点について触れられた文献が一つくらいしかなく、しかも、商事法務の解説で、担当の私めが、すっかり書くのを忘れていたので、罪滅ぼしのために説明させていただきます。
会社法では、非訟事件の審問・裁判の必要的併合は、新株発行無効の訴え等が確定した場合における会社の株主に対する支払額の増減命令申立事件についてのみ、これを要求しています(877条)。
「非訟」と聞いて、反射的に「ごめん!」と謝るような受験生もいるので、この制度について、簡単に説明すると、
1 新株発行無効の訴えが確定すれば、株式は無効になるかわりに、現在の株主に、「払込金相当額の金銭」を支払うのが原則(840条1項)とされている。
↓
2 でも、新株発行の時から、長い裁判を経て、やっと無効判決が確定した場合には、その間に、会社が、払込金を運用してたくさん儲けていること等があり、株主が、払込金相当額をもらうのでは、著しく不相当である場合がある。
↓
3 そこで、裁判所で、株主に支払う金額を決めてもらおう。
というのが、877条の支払額の増減命令申立事件です。
ちなみに、訴訟というのは、「要件」についての事実認定さえすれば、「効果」が一義的に定まっているもの(極端にいえば、コンピューターのように、Aと入力されれば、Bと出力するように法律上定められているもの)であるのに対し、当該事件は、裁判所が支払額をいくらに決めるかについて、法律上、何の基準もなく、裁判所の腹一つで、支払額を決めることができます。こういうタイプの事件を非訟事件というのです。
さて、話を支払額の増減命令申立事件に戻すと、当該事件については、新株発行を受けた株主間の平等を確保する見地から、非訟事件の申立人以外の株主(総株主)に対しても、その効力が及ぶこととされています(878条)。すなわち、払込相当金額で満足し、申立をしていない株主についても、裁判で決まった金額が支払われることになるのです。
そのため、申立人ごとに区々に審問・裁判を行うと、複数の裁判所が、それぞれ違う金額を定めてしまい、裁判の効力に矛盾が生ずるおそれがあるので、合一確定を実現するために877条は、複数の申立があった場合には、必要的併合することとしているのです。
これは、民事訴訟における類似必要的共同訴訟と同じ考え方です。
これに対し、株式買取請求権は、総株主に対する裁判の効力の拡張がありません。
これは、株式買取請求権を行使した株主が受け取ることができる株価の決定のプロセスが、新株発行無効の訴えが確定した場合と、根本的に異なることに起因します。
例えば、株式買取請求権を行使した株主が3人いるとします(仮に、無欲さん、強欲さん、闘争欲さんとしましょう)。
1 まず、無欲さん達3人は、それぞれ会社との間で、価格について協議を始めます(117条1項)。
2 協議開始の初日で、無欲さんは1株10万円で納得し、協議が成立しました。すると、会社は、無欲さんに対し、10万円を支払う義務が生じ、支払いをした時点で、無欲さんから会社に株式が移転します(117条5項)。
3 効力発生日から30日で、強欲さんは、会社と1株50万円で協議が成立しました。
この場合、無欲さんの株式の価格も、50万円になるかというと、そうではなく、やはり10万円のままです。つまり、ネゴの強い者が得をする世界が協議の世界です。
4 そして、効力発生日から30日以内に協議がまとまらなかったので、闘争欲さんは、裁判所に価格決定の申立をしました。
ここで、裁判所が1株30万円と価格を決定したからといって、無欲さんや強欲さんの協議の結果が覆るわけではありません。協議で価格が相対的に決まるのと同じように、裁判所が価格が決定しても、それは相対的なものに過ぎないものとされているのです。そうしなければ、最初に協議をさせた意味がなくなります。ここが、新株発行無効の訴えにおける支払額決定のメカニズムと根本的に異なるところです。
このように、株式買取請求における株式の価格決定は、株主ごとに相対的に行われるため、価格決定の申立が複数行われた場合に、その審問・裁判を併合する意味がありません。
仮に、申立をした株主の間だけでも価格を事実上同一にするために、併合したとしても、裁判前に、株主の一人が会社と協議して価格を決め、申立を取り下げることもできるので、何のために必要的併合にしているのか、よく分からなくなります。
しかも、上場株式のように、価格が日々変動する場合には、申立後、できるだけ早く価格を決定してあげたいところですが、必要的併合にしてしまうと、申立期間の初日に申立られた事件について、申立期間の最終日まで審問の開始を凍結すべきかどうか、裁判所としては判断に悩むことになりますし、価格の決定の申立をすることができる者について、必要的な陳述聴取(870条4号)とされているため、裁判遅延の原因にもなりかねません。
以上のように、株価が株主ごとに相対的に決まる株式買取請求権の価格決定については、必要的併合は、害あって益少なし、と言えるので、会社法は、株式買取請求権の行使時における価格決定申立事件については、必要的併合の規定を適用していないのです。
(質問コーナー)
Q1
5/29のQ13についての回答において
>5月1日に「当該株式会社の承認を要する旨」の定めがあるもの>とみなされています。
とありますが、これは立法的には、5/1以後に従来の譲渡制限会社が取締役会を廃止すれば、「取締役会の承認を要する」との定めが自動的に「株式会社の承認を要する」旨の定めに変更される・もしくははじめから「株式会社の承認を要する」旨の定めであったとみなされる、ということなのでしょうか?
そうであるあらば、登記実務上は誤った解釈に基づき・不要な手続を要求している(取締役会廃止に伴い、譲渡承認を取締役会から会社への変更決議+変更登記申請が必要)ことになってしまいます。。。
Posted by 一陶器屋 at 2006年05月30日 12:51
A1
旧法の譲渡制限会社は、施行時において、取締役会設置会社であり、取締役会設置会社は、別段の定めがない限り、取締役会が承認機関となるため、新旧で実質的な変更はありません。
そのため、整備法で、「株式会社」の承認を要する旨の定めがあるものとみなしているものの、登記上は、みなし規定は用意しておらず、職権登記がされないので、登記上は、「取締役会」を承認機関とする登記のままです。
したがって、取締役会を廃止する場合には、その廃止の変更登記と同時に、取締役会の承認を要する旨の登記を変更する必要があります.(6月6日訂正)
登録免許税は、取締役会の廃止と承認機関の変更の2本分必要です。
なお、「取締役会の承認」をから「株式会社の承認」に変更するための株主総会決議は不要です。法律で、「株式会社の承認」にみなされているので、その点の総会決議を行うのは論理的におかしいと思います。
調整マターではありますが、当該総会決議を要求するのは、私的には、ほとんど、ありえない解釈だと思います。
Q2
株券についての質問です。
①会社法施行前に発行した株式の株券を会社法施行後に発行する場合、株券の記載事項は新法旧法いずれでいくのでしょうか。
②以前普通株式であっても異なる種類の株式の一種類にすぎないというお話しをお聞きしましたが、普通株式の株券を発行する場合も、やはり「株式の内容」を記載しなければならないのでしょうか?(旧法下では、実務的には記載していない例が圧倒的に多いと思いと思いますし、注釈会社法(4)52頁にもそのような趣旨の記載があります)
Posted by paripasu at 2006年05月30日 22:04
A2
① 会社法施行後の株券の記載事項については、会社法によります。
② 株券には、株式の内容について異なる定めがないことが明らかにされればいいので、何も記載しなくてもよいと思います。
Q3
合併時の取締役の任期について関連質問をさせて下さい。
定款で任期を1年とする会社(3月決算)の会社が、4月1日付で合併する場合に、合併契約書において合併時に新たに就任する取締役を定めた場合、その取締役の任期は、やはりその年の6月に開催される定時株主総会終結時まで(なので任期は3ヶ月間)という理解でよろしいのでしょうか(「選任時」=合併承認総会であり、合併承認総会は当然決算期より前に開催されているので)。
もしこれを1年と3ヶ月まで伸ばしたい場合には、合併契約において、その選任の効力が4月1日からスタートする、と記載しておけばよいのでしょうか。
なお、旧商法414条の3は削除されていたような気がします。
Posted by 参事官室によく電話する人 at 2006年05月29日 22:52
A3
吸収合併の場合、合併契約書で取締役を定めても、選任の効力はありません。
仮に、取締役の選任についての定めを置いても、それは債権的効力を有するに過ぎず、存続会社において、吸収合併契約を承認する株主総会決議とは別に、取締役等の選任決議を経て、はじめて取締役等に選任されることになります。
それを前提にしてお答えしますが、合併承認のための臨時総会で(3月末よりも前に開催)、新取締役を選任したとすれば、6月の定時株主総会で任期切れです。
選任の効力を4月1日にしたとしても、選任決議の日から1年をカウントしますから、同じです。1年3か月に伸ばす方法は、定款でその取締役の任期を1年3か月までできるようにするしかありません。
ちなみに、そこで1年3か月に伸ばすと、剰余金の配当等を取締役会の決議で行う旨の定めも効力が失われます。
Q4
5月24日の記事に、
「2時間で1科目を見通せる自分のオリジナルノート」
を作るのがよい、とありますが、具体的にどのようなものを作ればよいのでしょうか?
教科書の中の必要な情報を取捨選択する、ということだと理解しているのですが、何をノートにとればよいかわかりません。
人それぞれなのかもしれませんが、葉玉先生のお勧めの方法等ありましたら教えていただけないでしょうか?
Posted by 法学初心者 at 2006年05月30日 11:48
A4
会社法100問の末尾に書いた、勉強の仕方の記事を参考にしてください。
(追伸)
昨日の記事について、悲鳴さん、koizumichildrenさん、通りすがりLSさんから、コメントをいただきました。
私は、ロースクールの授業のすべてが悪いとは思っていませんし、逆に、学生が苦しむような授業も存在するのも事実だと思います。
ただ、私の処世術は
1 自分が変えられないものに文句を言っても無駄。
文句を言ったり、不満でウジウジする暇があったら、解決策を考えろ。
2 自分のことは、自分で変えられる。自分を変えられないのを他人のせいにするな。
3 時間は、与えられるものではなく、自分で作るもの。時間がないのは、言い訳にならない。
というものです。
たとえば、私は、一般的には、忙しい人間の類だと思います。
上司や同僚の助けを借りながら、会社法、電子債権、株券電子化、ハーグ条約、ユニドロワ条約など複数の仕事を並行的に行い、出版用の執筆活動をし、土日は子供の家庭教師として四谷大塚の予習シリーズを教えながら、こうしてブログを書いています。
検事時代も、某有名な部署で大規模な経済事件をやりながら、ボランティアで司法試験のゼミをやっていました。そこは、毎日、午前8時から午前2時まで仕事をするところで、常識的には、ゼミなど不可能なところなのですが、ゼミの日には、主任検事に
「すいません。夕食を食ってきます」
と言って、おにぎりを片手に、2時間半のゼミをした後、検察庁に戻り
「ただいま、帰りました。」
と言って、平然と仕事をするということもありました。
(ちなみに、検事に残業代はつきませんので、残業代泥棒にはなりません(笑)。)
自分の人生は、自分で決め、自分が責任を取るのです。
最終目標に役に立たないことは、最低限のやつっけ仕事で乗り切るのは当たり前。
その「最低限」の見切りのつけ方も、事務処理能力の一つです。


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