107条と108条
「いまさら何だ」と言われてしまうかもしれませんが、会社法の施行日を
5月1日
とする政令が公布されました。
私達は、昨年から、ずっと「5月1日に会社法が来るぞー」と言い続けていたものの、あまりにも政令が出るのが遅いので、最近では、解説会で「5月1日」という度、会場の人が疑惑の目で見ているような被害妄想に悩まされ、また、
「もし施行日が12月になったりしたら、総会の準備は全てパー、今年の各種試験も「やっぱり会社法ではなく、旧商法になりました」なんて発表されて、俺たちの命はないな」
と不安にもなりました(笑)。
しかし、オオカミ少年の日々も、今日で終わり。
会社法が一息ついたので、あとは、省令の改正と、質問対応と、千問・逐条・コンメンタール等の執筆活動と、講演3本と、株券電子化の政省令と、ハーグ間接保有証券準拠法条約と、ユニドロワと、規制改革と、電子債権の法制審・中間試案・条文案作成が残されるのみ・・・って、ぜんぜん「のみ」じゃないぞ > 俺。
気を失いかけたので、この話題はこれで終わり、本日のネタ「107条と108条の関係」についてお話しします。小ネタですが、株式関係の登記をしたりする場合や種類株式がらみの規定を理解するためには、頭に入れておかなければならない部分です。
さて、107条1項と108条1項は、「いわゆる普通株式」ではない株式を発行するために、どのような定めをを置くことができるかを規定したものです。
この2つの条文の役割分担を端点に言えば
107条1項 1種類しか株式を出さない会社の規定
108条1項 2種類以上の株式を出すことができる会社(種類株式発行会社)の規定
ということができます(ちなみに、「1種類」というのは説明のために使った言葉であり、会社法では、1種類のときは「種類はない」と考えています)。
登記も、107条1項各号の定めと、108条1項各号の定めでは、書く欄が違います。
では、ここで問題です。
(1)基本
普通株式しかない会社が、定款を変更して、発行済株式に譲渡制限条項をつけました。
この譲渡制限条項は、何条の定めでしょうか。
答は、「107条1項1号に掲げる事項についての定め」ですね。
これは、正解して当たり前なので、威張らなくても結構です。
(2)種類株式の追加
この会社が、従来の譲渡制限株式(A種株式と呼びます)に加え、譲渡制限条項と取得請求権条項を有するB種株式を発行するため、定款を変更したとしましょう。
B種株式について変更された譲渡制限条項と取得請求権条項は、「108条1項4号」及び「5号」に掲げる事項についての定めに該当しますね。
では、このときのA種株式の「譲渡制限条項」は、107条1項1号でしょうか、108条1項4号でしょうか。
答は、「108条1項4号に掲げる事項の定め」です。
最初に、A種株式に、譲渡制限条項を置いたときは、「107条1項1号に掲げる事項についての定め」だったのに、B種株式を追加する定款の変更をすることにより、A種株式の譲渡制限条項が「108条1項4号に掲げる事項の定め」に変わってしまうのです。
ですから、B種株式を追加する変更登記をするときは、B種株式を追加するだけではなく、A種株式についての記載も変更しなければいけません。
(3)種類株式の廃止
さらに話を進め、A種株式を消却した上で、A種株式に関する定めを廃止したとしましょう。この場合、B種株式の譲渡制限条項及び取得請求権条項は、何条の定めになるのでしょうか。
答は、「107条1項1号及び2号に掲げる事項についての定め」ですね。
A種株式を廃止することにより、この会社には、B種株式しか存在しなくなるので、その定めの根拠規定が108条1項から107条1項に変化してしまうのです。
当然、A種株式を廃止して、変更登記をするときは、B種株式についての記載も変更しなければいけません。
このように譲渡制限条項は、「107条1項1号」になったり、「108条1項4号」になったりするので、会社法の条文は、譲渡制限条項について
a. 116条1項1号のように「その発行する全部の株式の内容として第百七条第一項第一号に掲げる事項についての定め」と規定されている場合は、「1種類の株式しかない会社の株式に譲渡制限条項がついている場合のその定め」という意味
b. 100条1項や116条1項2号のように「ある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号・・に掲げる事項についての定め」と規定とされている場合は、種類株式発行会社のある種類の株式に譲渡制限条項がついている場合のその定め」という意味
c. 309条3項1号や336条4項4号のように「その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定め」と規定されている場合には、「1種類の株式しかない会社の株式に譲渡制限条項がついている場合のその定め(aの定め)、又は、種類株式発行会社の発行する全部の種類株式の内容として108条1項4号に掲げる事項についての定めがある場合におけるそれらの定め」という意味
ということで書き分けています(もっとも、309条3項1号は、種類株式発行会社の株主総会には適用されないので、同号は、cの定め方をしつつ、結果的には、aの定めを規定しているのと同じことになっていますが)。
これらのうち、cは、正直言って、読みにくいと思いますが、日本語の限界と大人の事情が絡み合って、こういう表現になっているのです。
336条4項4号の「その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更」は、一言で言えば、「非公開会社が公開会社となったとき」のことを規定しています。
この規定が適用される公開会社化のうち、「107条1項1号に掲げる事項についての定めを廃止」したときは、比較的簡単に書けるのですが、A種、B種、C種の全てに譲渡制限条項が付されているときに、C種についてでけ、譲渡制限条項を廃止した場合を書くのは、なかなか難しい。
単に「108条1項4号に掲げる事項についての定めを廃止したとき」と書いてしまうと、A種とB種は譲渡制限条項付、C種は譲渡制限なしという公開会社で、B種の譲渡制限条項を廃止したときまで含まれてしまい、必要以上に範囲が広くなります。
それで、「種類株式発行会社の発行する全部の種類の株式の内容として108条1項4号に掲げる事項についての定めがある場合における、その定め」という意味も含まれるものとして、「その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定め」という表現が使われているのです。
他にもいくつかの案があったのですが、一人で決めるわけにいかないのがこの世の常。
結局、選ばれたのが、この表現だったということであり、「わかりにくい」「そうは読めない」というご批判に対しては素直に頭を下げますが、できちゃった以上、非公開会社になった場合をすべて含むと考えていただければ幸いです。


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