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2006年1月30日 (月)

相互保有の判断時期

新刊本を書いていて、「相互保有株式かどうかの判断時期はいつか」という問題について考えていたら、気持ちがモヤモヤしたので、思うところを書きます。

A社がB社の株式を4分の1以上保有している場合(実質支配可能状態になった場合)に、B社は、A社の株式の議決権を有しないというのが308条1項のカッコ書きで規定されています。

では、
①A社の基準日において、B社は実質支配可能ではなかったが、その後A社がB社の株式を買い増したため、総会の時は、実質支配可能になった

②A社の基準日において、B社は実質支配可能だったが、その後A社がB社の株式を売ったため、総会の時は、実質支配可能ではなくなった

という場合に、B社は、A社の株主総会で議決権を行使することができるでしょうか。

この点については、「基準日」を判断時期とすれば(基準日説)、①は○、②は×となるのに対し、「株主総会の時点」を判断時期とすれば(総会時説)、その逆になります。

実質支配可能な関係になったときに議決権を認めないとする趣旨が、議決権行使の歪曲化防止という点にあるとすると、B社が議決権の行使をする時点、つまり、株主総会の時点で、実質支配可能になっていると歪曲されてしまう虞があるから、総会時説が趣旨には素直のように感じます。

 また、A社が自分でB社の株式を基準日後に買い増したために、実質支配可能な状態になったとすれば、総会時説にたっても、A社は、B社の議決権がなくなるかどうかを認識できるので、総会手続に混乱を生じさせることはないでしょう。

 しかし、実質支配可能な状態になるかどうかは、A社の行為のみによって決まるのではなく、B社が自己株式を取得したり、自己株式を処分したりすれば、A社が何の行為もしていないのに、実質支配可能かどうかが左右される可能性があります。

 そのため、総会時説に立つと、基準日において議決権が制限されていたB社が、基準日後に新株発行を行ったため、実質支配可能ではなくなってしまったような場合に、A社は、急に、B社に議決権を行使させなければならないということになってしまい、株主総会の招集手続や運営に支障を来すおそれがあります。

 そこで、私は、308条1項が、議決権の行使を制限する規定ではなく、株主が議決権を有するかどうかについての規定であることを考えて、議決権についての基準日に、「議決権を有するかどうか」が決まり、その後に実質支配可能状態になっても、議決権の行使は制限されないと解すべきではないかと思っています(基準日説)。

 ただ、似たようなことではありますが、「自己株式」については、基準日説は、採用できません。

例えば、B社がA社の基準日において株式を有していたところ、その後、A社の株主総会前にB社がA社に吸収合併されたため、A社が自己株式を包括承継した場合、A社は、B社の有していた議決権を行使することができるでしょうか。

さすがに、この場合は、実質論として議決権行使を認めるのは駄目でしょうし、自己株式の取得は、A社が認識できるので、総会の混乱を考える必要もありません。

 そこで、条文を見てみると、308条2項は、「前項の規定にかかわらず、株式会社は、自己株式については、議決権を有しない」と規定しています。

 もし自己株式と実質支配可能株主と同列に取り扱うのならば、1項のカッコ書きの中で「・・・法務省令で定める株主及び当該株式会社を除く。)」としておけばいいのに、わざわざ自己株式については、別の項に規定して、同条1項の適用を除外しているのですから、両者は、別の取扱いをすべきであり、2項は、基準日がいつかにかかわらず、自己株式については、常に議決権を有しないことを明らかにした規定と読むべきであると思います。

 この3日間、実務の方からの質問や、このブログで出た疑問点などを本に入れ込もうとして、1000個近くのQ&Aを添削しているため、頭が飽和状態になってます。おかげで、今日のブログは、何のひねりもないものになってしまいました。
 ただ、議決権の数の確定は、証券取引法上の開示や、放送会社等外国人保有制限銘柄についての株主名簿の書換拒否など色々な制度の前提となっているため、結構、重要な話だと思います。

2006年1月27日 (金)

株式買取請求と分配可能額

私の尊敬する商法のある先生から「株式買取請求権を行使した株主に支払った金銭の額が分配可能額を超える場合の責任(463条)が,総株主の同意で免除できる理由が,どうもよく分かりません。難問です。」と言われました。

463条の趣旨は,42問の小問2で,それなりに論じていますが,今日は,この責任の性質について,掘り下げてお話しします。

キーワードは,「食い逃げ」です。

まず,分配可能額に関する処理について,まとめておきましょう。
【支払時に分配可能額を超えた場合】
1 取得請求権付株式(166条)・取得条項付株式(160条)の取得
→取得は無効。
 互いに不当利得返還請求権が生ずる。
 返還請求権の免除について規定なし。

2 剰余金の配当等
→配当等は有効。
 株主及び取締役等に剰余金の配当等についての責任(462条)
 分配可能額を超える免除は不可

3 116条の株式買取請求権の行使
→代金支払いは有効。
 取締役等に対し,116条の株式買取請求権を行使した株主に支払った金銭についての責任(464条)。
 総株主同意で免除可能

4 組織再編時・単元未満株主の株式買取請求権
→代金支払いは有効。
 法定責任なし。

【支払い後の決算で分配可能額を超えた場合】
5支払い後に欠損
→支払いは有効。
 取締役等に対し欠損填補責任(465条)
 総株主同意で免除可能

さて,分配可能額に関する処理というと,何でも
「債権者保護のため」
と思いがちですが,実は
「株主の保護」
という側面もありまして,3(464条責任)と5(465条責任)は,「株主保護のための責任」なのです。

たとえ話をしましょう。

葉玉家のママが,私の留守中に,ホットケーキを焼いています。
ママは,3人の子供達に
「パパの皿にまず3枚焼くから,そこから,食べたらダメよ。あなた達は,その次よ。」
と言いました。
 パパは債権者,3人の子供達が株主,ママが業務執行者です。
 つまり,パパの皿の3枚を超えた部分が,3人の子供達にとっての「分配可能額」になると考えてください。

 このとき,3人の子供がパパの皿から3枚とって食べてしまった場合が,いわゆる違法配当です。ママは怒って「みんな,自分でホットケーキを焼いて,食べた分をパパの皿に返しなさい」というでしょう。
ここでは,株主(子供)が平等に食べた分を返すのが筋であり,子供達が焼けないならば,業務執行者(ママ)が代わりに返すわけです(462条の違法配当責任)。

 これに対し,長男が「これから塾があるから,もう出発しなきゃいけないよ。パパの皿から1枚食べていい?」とママに頼み,ママがパパの皿から取って,長男に1枚食べさせたとしましょう。
 すると,弟達は「ずるいよ。兄ちゃんだけ食べて。せっかく,あと1枚焼ければ,僕たちが食べられるところだったのに,お兄ちゃんが1枚パパの皿から取ったから,2枚焼かないと食べられなくなったよ。ママ,自分の分を1枚パパの皿に乗せて,3枚にしてよ。」というでしょう。これが,464条の株式買取請求に応じた取締役等の責任です。

 もうちょっと法律的にいうと,116条の株式買取請求権を行使した株主に分配可能額を超えて金銭を支払うと,欠損が生じるため,その超過額分(欠損額)だけ利益を出さないと,剰余金の配当することができなくなります。
 残った株主は,「買取請求をされなければ,次期に稼いで利益を配当できたはずなのに,その利益が,反対株主に交付されて,そのまま食い逃げされてしまった。そんなことになったのは,取締役達が買取請求権を行使されるようなこと(116条に掲げられた事項)をしたからだ。」と思うでしょう。
 それで,そんな事態を生じさせた取締役の見通しの甘さ(一種の任務懈怠)を根拠として,取締役に,その超過分を支払わせて,次期の利益について剰余金の配当ができるようにするというのが,464条の趣旨なのです。

「そうは言っても,464条の責任も,債権者保護にも役に立つでしょ。」と思うかも知れません。

確かに,結果的には債権者保護に役に立つわけです。

ただ,現行商法も,会社法も,株式買取請求権と債権者保護では,株式買取請求権の方が優先するという考えに立ち,その局面では債権者は,間接的な利益を享受するものに過ぎないのです。

このことは
①株式買取請求をした反対株主は,分配可能額を超えている場合でも,462条の場合と違って,自分の受け取った代金を会社に返還する義務を負わない。
②上記4で掲げた「組織再編時の株式買取請求権」については,取締役の法定責任すら生じない
ということからも,分かっていただけると思います。

反対株主の方が,債権者に優先されるというのに違和感を感じる人もいるでしょうが
①反対株主に生ずる著しい不利益を回避するために会社から離脱することを確実に保障する必要がある。
②反対株主の株式に価格があるということは,会社が実質債務超過に陥っているわけではないということだから,欠損が出たとしても,債務の支払い不能状態にまで陥っているわけではない。
②反対株主は,通常,最大で3分の1しかいない(特別決議の場合)ので,債権者に与える影響は限定的である。
ということを考えると,これは,これで一つの政策判断なのです。
(現行商法でも,債権者は何も保護されないのですから,別に会社法が悪いのではありません。むしろ間接的には債権者にも利益が及ぶようになっています。)

このような整理を前提とすれば,464条の責任の免除においては,債権者の利益を考慮せず,反対株主に食い逃げをされた既存の株主の同意で足りるというのが,論理的な帰結になります。

同じことは,配当後の欠損填補責任(465条)についても言えます。

465条の欠損填補責任は,配当の時は分配可能額の範囲内で配当しているのですから,債権者との関係では,きちんと約束を守っており,債権者から文句を言われる筋合いはありません。

ただ,取締役等の見通しが甘かったために,配当後の決算期で欠損が出てしまい,その時の株主に剰余金の配当ができなくなったので,取締役等に責任を取ってもらうということなのです。

つまり,次期の株主は
「期中に配当をもらった株主が,本当なら俺たちがもらえるはずのものを,食い逃げした。期中にそいつらに配当を払った取締役等の見通しが甘すぎる。」
と考えるので,取締役が,欠損分を支払って,次期からの利益をちゃんと配当できるようにしてあげようというのが,465条の責任です。

なお,どちらの責任も,取締役等が悪くないときもあるので,過失責任になっております。

追伸 土曜日曜は,締め切り間近で気合いを入れて執筆活動をするため,ブログ更新をお休みさせていただきます(月曜日はボロボロになっているかもしれませんが,頑張って夜には更新する予定です。)

2006年1月26日 (木)

定時株主総会の開催日

 会社法の省令が固まりつつあります。当初、予定していた1月中の公布は無理そうですが、さほど遅れずに公布できそうです。

 パブコメの意見を大幅に採り入れ(ここまで大きくパブコメで変化したのは日本新記録だと思います)、変貌をとげた省令の姿を眺めながら、2月10日、13日、14日と立て続けに開催される解説会で何をしゃべろうか、悩んでいるところです。

 また、その合間の2月12日は、会社法の基本原則について話すことになっていて、企画満載ですね。

 しかも、会社法に関し実務の方などから寄せられた各種の質問と法務省令の解説を合わせた新刊本を、3月中旬に出すと決意しているので、その執筆や編集が、余計にスケジュールをタイトにしています。

 なぜ3月中旬かというと、通常、定時株主総会の準備は、3月いっぱいに目処をつけないといけないからです。

 3月決算後は、その準備をベースに、計算書類等の作成、議案の確定、会計監査、監査、取締役会の承認、総会招集と怒濤のようなスケジュールが待っています。
 上場企業の総務部・法務部の人たちが、総会にかける労力と苦労は、端から見ても、涙ぐましいものであり、私も、会社法の施行後はじめて行う総会を適法かつ適切に乗り切るのに、少しでもお役に立てればと、朝晩、仲間達が書いてくれた原稿を足したり、引いたりしながら、苦悩しているのですが、出版日から逆算すると、「おいっ、今月いっぱいくらいが締め切りだよ。今月って、あと5日だよ。」と途方に暮れたりしております。

 そういえば、私と同郷の人であるチェッカーズの藤井フミヤさんが、以前、

 「締め切りが傑作を作る」

とおっしゃてました。けだし、名言。

 ガウディのサグラダファミリアのように本人の死後も成長していく傑作もありますが、どこかで、自分の頭の中にある余計なものをそぎ落として、自分の本当に言いたいことを形にするには、普通は、どうしても「締め切り」が必要です。
 会社法も、法務省令も締め切りとの戦いでしたし、受験生も、試験日という締め切りが近づくからこそ、自分に本当に必要なものを選別して身につけることができるんだと思います。
 おっと、人の心配をする前に自分の心配をしなければ。

 総会の準備の話が出たので、今日は、「定時株主総会の開催日」についてお話しします。

 実は、本日、経産省の企業価値研究会に出席したところ、上場企業の株主総会の集中日の関係で
 『日本は、決算日から3か月以内に定時総会を開かなければならないとういことが集中日の原因になっている』
という話が出ましたので、私は

「決算日から3か月以降でも、定時総会は開けます」

と意見を述べてきました。

 この3か月神話は、だいたい次のような論理に基づくものです。
 1 決算日の株主に、配当すべきであるから、決算日を「基準日」にしなければならない。
 2 基準日は、利益配当請求権と議決権を行使する株主を確定するものである。
 3 基準日は、3か月間しか、効力はない(124条2項)。
 4 よって、基準日から3か月以内に定時株主総会を開催しなければならない。

この4つの命題のうち、3は正しいですが、残りは、必ずしも正確ではありません。

まず、1については、現行商法では、利益配当は年1回しかできず、さらに、期中に1回だけ中間配当という利益配当と性質の違う利益配当類似の行為ができるという整理ですから、「決算日の株主に利益配当をすべきである」という命題は、それなりに正当性があると思います。
 しかし、会社法は、決算日の貸借対照表をベースに、その分配可能額の範囲内で、1年に何回でも利益配当できるので、その命題の前提が崩れています。

次に、2については、株主のどんな権利について基準日を設定するかは、会社の自由であり、利益配当請求権の基準日と、議決権の基準日をバラバラに決めることもできるので、二つを必ずそろえなければならないという考え方は現行法でも間違っています。

以上を前提とすると
パターン1 利益配当請求権と議決権の基準日を決算日とせずに、4月30日にする。
パターン2 利益配当請求権の基準日は決算日とするが、議決権の基準日は4月30日にする。
というような方法を採れば、3月決算会社の7月総会は可能です。

 パターン1は、会社法の制度からすれば、合理的ですが、投資家は、決算日に株を持っていると配当をもらえると思いこんでいますから、ちょっと実務的には受け入れ難いかもしれません。

 ただ、パターン2は、配当については投資家の信頼を裏切らないし、議決権行使に興味がある株主は限られてくるので、実現も不可能ではないのではないでしょうか。
配当はともかく、「役員の選任」議案は、別に決算日の株主が決める意味はないと思います(本当は、配当も同じですが)。

さて、パターン2で障害になるとすれば、
  配当は、原則として株主総会の決議で決める
というルールです(454条)。この原則に従うと、決算日の株主に配当をやるためには、6月までに総会を開かなければなりません。

そこで、出てくるのが、会計監査人・監査役会設置会社又は委員会設置会社に認められる
「取締役会の決議による剰余金の配当の決定」(459条)
です。

459条の要件に該当する会社は、同条の定款の定めがあれば、定時株主総会前に、決算日の株主に配当することができます。そして、4月末とか、5月末とかを、定時株主総会の議決権について基準日に設定すれば、7月総会でも、8月総会でも、好きなときに定時株主総会が開催できます。

また、税金や証取法が、3か月神話を作っているという噂もありますが、多分、誤解であり、法制度上は、6月総会じゃなくてもいいはずです。

 私も、子供ではないので、7月総会、8月総会が、実務ですぐに受け入れられるとは、全然思っていないのですが、欧米では、定時株主総会は、決算日後6か月以内という法制が多いようで、ここらへんもグローバルスタンダードになれば、企業の総務部の方も少しはスケジュールが楽になると思い、3か月神話に挑戦してみました。

 なお、本日の記事は、「今年、みんなが7月総会にしてくれると、原稿の締め切りが1か月延びるかも」という動機に基づくものではありません。
 締め切りが近づくにつれ、「傑作じゃなくてもいいから、締め切りを延ばして欲しい」という気持ちになりつつありますが(笑)。

分割会社の債権者の保護

今日は、吸収分割の話をします。

吸収分割とは、株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいいます(2条29号)。

 平たく言えば、会社の事業を他の会社(承継会社)に売るようなものです。

 「売る」と表現してしまうと、事業譲渡(467条)と区別できなくなりそうですが、会社法では、吸収分割は、いわゆる物的分割(分割会社が承継会社から対価を受け取るタイプ・分社型分割とも呼ばれます)しかなくなってしまった上、対価が柔軟化してしまったので、経済実態としては、事業譲渡とそれほど大きな違いがありません。下の図を見て、吸収分割か、事業譲渡かを区別できる人はいないはずです。

       事業
 A社

2006年1月25日 (水)

実質債務超過会社の吸収合併(2)

実質債務超過の論点は、みんなモヤモヤするところのせいか、いくつもの質問やご意見をいただきました。ikさんやE.Kさんのご意見と、私の意見は、かなり共通するところがあり、より分析的に説明した方がいいと思いますので、今日は補足することにします。

昨日もお話ししましたが、実質債務超過会社の吸収合併で、一番問題なのは「実質債務超過」という言葉のあいまいさです。それと関連して、「のれん」という概念の多義性も話を複雑にしています(ikさんやE.Kさんのコメントにも、2つの「のれん」がでてきますよね)

最初に、実質債務超過の定義として、2つの仮説を立てます。
A説 のれんを計上し、資産の再評価をしても債務超過であること
B説 消滅会社が、その債務の全部の支払いをすることができないこと

A説では、簿価に二つの要素、①「のれん」と②資産の再評価を加えたものです。
一見、これは、会計っぽい定義なのですが、実は会計とは何にも関係のない概念です。

 ①の「のれん」は、会社法・計算規則でいう「のれん」とは別の概念である「営業権」(法的な権利ではない経済的事実関係)のことを指します。
 これは、会計の世界では、自己創設のれんとして資産として認められないものです。

 なぜ認められないかというと、自己創設のれんは、会社の自己判断によるもので客観性が担保できないからです。

例えば、株式会社葉玉商店の社長の葉玉さんが、「うちは、簿価債務超過ですが、この千代田区一帯にお得意さんを1000社も抱えていますから、それを時価評価すると、2億円くらいの価値はありますよ」などと言って、資産の部に「営業権 2億円」なんて勝手につけるのは困ります。

 EKさんは「商法の時代、時価評価すれば債務超過でない場合は、これを正確に計算する手間をかけなくても、登記の際に、適当に「営業権」を計上すれば、登記は通った。これは、「実質債務超過」ではありません。」とコメントされています。
 A説で言えば「資産の再評価」の問題ですが、それを「営業権」という勘定科目にするのもどうかという気がしますし、「時価評価したら債務超過になってしまった場合でも適当に営業権を計上すれば登記できてしまう」という状態でもあったということは、「簿価債務超過は合併させない」というルールは機能しなかったということにもなります。

 このように「営業権」(消滅会社ののれん)は
 「簿価」債務超過の会社の吸収合併は認めない
というルールのもとで、合併をするために簿価債務超過を回避するものとして機能していました。

 しかし、先ほども申しましたように、この消滅会社の「営業権」は会計の世界では認められないもので、結局、A説のように、営業権を加えた上で、実質債務超過かどうかを判断するというのは、もっぱら法律の解釈の問題です。

 では、「営業権」は、法律上、どのような基準で評価するのでしょうか。
 ご存じの通り、そのような基準は、何もありません。

 E.Kさんのおっしゃるように「営業権」の経済的な評価手段として、割引キャッシュフロー等色々な方法はあります。

 しかし、それは営業権又は株式の「取引の参考資料」としての基準です。
 合併の無効という法的な効果につながる財産の評価を、公正な会計慣行とは異なる基準で、算定しようというのならば、明確で一義的な基準を提示しなければ、法的な安定性は図れません。
 例えば、「割引キャッシュフローによる営業権(又は株価)の評価は適切である」という考えは、比較的最近のものだり、それを裁判で採用してくれるのかどうか、算定の前提となる将来のキャッシュフロー予測や割引率を裁判所がどう考えるのかは、それこそ、予測できず、思いもよらないところで、合併無効とされるおそれがあります。

 しかも、「実質債務超過はダメ」というルールを作るのならば、合併の登記の申請で、法務局に対し、実質債務超過でないことを証する書面を提出させ、法務局で、それを判断して、登記させるかどうか決めることにするのが筋であり、それでは混乱は必至でしょう。

また、「実質債務超過でないこと」を要求する説は、「簿価債務超過」で、かつ、実質債務超過というところを考えがちですが、実は、「簿価は債務超過じゃないけれど、実質は債務超過である会社も合併できない」というルールも採用することになり、これでは、どんな場合も、消滅会社の資産の再評価と営業権の算定をしない限り、安心して合併することができない(算定したって、安心はできないですが)ということになります。

もちろん、「実質債務超過でないこと」を要件とすることが、債権者や株主の保護に役に立つということであれば、知恵を絞るのもいいのすが、昨日の記事でも書いたように、この問題は、債権者や株主の保護とは、直接の関係はないのです。

 以上の消滅会社の「営業権」という意味の「のれん」に対し、計算規則の「のれん」は、「存続会社が拠出した財産の時価−消滅会社から入ってきた財産の時価」という差額で、存続会社側のBSに計上されるものです。
 これは、「合併当事者が合意した条件である以上、その差額には何らかの経済的価値があるだろう。だから、「のれん」として計上しよう。もし、存続会社の予測がはずれて、その価値が幻想だったら、あとで減らしましょう」という考え方です。

 私は、この考え方は法的にも一理あると思います。
 浅田真央ちゃんのスケート靴でも分かるように、財産の価値は多様です。
 くまさんのコメントにあったように「子会社を当面の損失覚悟で救済して、その代わり子会社関連の取引関係等を維持するほうが、親会社にとって得策だという判断」も経済実態にあった判断であり、許容すべきでしょう。
 また、「消滅会社には資産は何もなく、キャッシュフローもない。しかし、優秀な人材が揃っていて、吸収合併した方が、個人ごとにヘッドハンティングするよりも、ずっとコストがかからない」という目的で行う合併も合理的です

これらの経済的利益は、会計基準でも評価されず、株式や営業権の価値の評価方法でも図れませんが、実際には強いニーズがある大きな利益なのです。

したがって、「簿価債務超過」だろうが「実質債務超過」だろうが、合理的な当事者が評価した消滅会社の財産的価値を尊重した上で、株式やその他の財産を交付することができると解した上で、株主や債権者の保護は、株式買取請求権や債権者異議手続で図れば十分だと思います。

この株主保護という点について、 ikさんが「合併比率の不公正は合併無効事由にならないわけですが,これって合併承認決議の取消事由にもならないという理解ですか」という質問をされています。

 特別利害関係人が議決権を行使して、著しく不公正な決議がされた場合に該当するならば取消事由になるでしょうが、むしろ、株主については、「公正な価格」での株式買取請求権で保護されると考えた方がよいでしょう。

次に、B説(消滅会社が、その債務の全部の支払いをすることができないこと)について簡単に説明します。

この見解の問題は、債権者異議手続が何のために行われるのかを説明することができないということです。
           
債権者保護手続きは、平成9年に改正があって、存続会社が異議を述べた債権者に弁済等をしなければならないのを原則としつつ、「ただし、当該吸収合併をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない」(799条5項ただし書)という限定がつけられています。

つまり、債権者に支払うことができる限りは、会社は、弁済等をする必要がないのです。

では、ここで問題です。
「存続会社が、合併前は、支払能力があるのに、吸収合併をすると、債権者に支払うことができなくなる場合はどんな場合でしょう?」

答は、存続会社が、消滅会社の財産を包括承継したために、存続会社の資産が目減りする場合、すなわち、消滅会社の財産が実質的債務超過の場合です。

このように799条5項ただし書は、B説でいうところの実質債務超過会社を吸収合併することを前提としている条文であると考えられ、この批判はA説にも該当します。

ということで、私は、やはり、簿価債務超過・実質債務超過の会社を吸収合併し、対価として株式や他の財産を交付することができると考えるのが、もっとも会社法に適合的であり、また、合理性・法的安定性に優れていると思います。
 そして、資本金や資本準備金の増加については、その論点とは関係なく、淡々と、計算規則で計上すればよいのです。

 HSさんやとしこさんの質問にも文中で答えたつもりですが、いかがでしょうか。

2006年1月24日 (火)

実質債務超過会社の吸収合併

堀江さんが逮捕されて思わずテレビの特番に目が釘付けになりました。
このブログは、客観的には存亡の危機にあるかもしれないのですが、将来どうなるかは、ライブドアの幹部が小菅に行った今は、誰にも分からないことかもしれません。

誰にも分からないと言えば、実質債務超過という言葉も、よく分からない言葉です。

改正前の商法では、「実質債務超過の会社を吸収合併することはできない」というのが通説だったわけですが、会社法は、簿価債務超過の会社の吸収合併を認めることにしており、私は、実質債務超過の会社の吸収合併も認められると解釈しています(論点<681>)。

実質債務超過を、どう定義するかは難しい問題ですが、イメージとしては、会社の資産を時価評価しても、(さらに、営業権とよばれる経済的価値ある事実関係を足しても)、債務の方が多いような場合をいうことになるでしょうか。

従前、実質債務超過の会社を吸収合併することができないとされる理由は、大きく言えば、3つあったように思います。
1 存続会社が負の財産を承継すると存続会社の株主や債権者を害する。
2 存続会社が承継するのは、負の財産なのに、資本を増加させるのは、資本充実の原則に反する。
3 存続会社が、負の財産の承継に対して株式を発行するのは論理的にできない。

 このうち1は、反対株主の買取請求権や債権者異議手続があるのだから、それで処理すれば足りるし、存続会社が、合併前に消滅会社に出資をして債務超過を解消すれば、合併することができるのですから、実質債務超過会社の吸収合併は、債権者や株主を害するというような話ではないと考えざるを得ません。

 そのようにして合併すれば、存続会社が出資した財産は消滅会社から存続会社に包括承継され、元に戻ってくるわけで、合併後の資産と負債を見る限り、実質債務超過のまま合併したのか、一旦、出資してから合併したのかは、何の違いもないのです

(むしろ、一旦、存続会社が出資して消滅会社の資本を増やすと、そこで登録免許税等のコストがかかりますから、余計なことをせずに、最初から実質債務超過のまま、合併した方が債権者や株主にとって有利です)。

 次に2の存続会社の資本金の増加との関係は、省令が固まらないときちんとしたことをいえません。
 ただ、パーチェス法をとっても、持分プーリング法をとっても、消滅会社の財産の客観的価値を超える資本金の増加は認められるのですから、「資本の増加額に見合うだけの財産が現実に拠出されなければならない」ということは、実質債務超過の会社の吸収合併を否定する理由にはなりません。

 何より、合併後、存続会社の資本金の増加額を「0」にすることもできるので、そのような場合には、資本充実の原則は全く無関係ということになります。

 最後に、3の「負の財産の承継に対して株式を発行する」ということですが、私は、これも債務超過会社の吸収合併を否定する理由にはならないと思います。

 まず、会社法では、対価を株式以外の財産とする合併や無対価合併も認められているので、そのような合併では、3の問題は起きません。

 例えば、現金交付合併の場合、存続会社にとっては、消滅会社の財産を現金で購入したのと実質的には同じです(単に包括承継だというだけです)。

 この場合、「負の価値のものに現金を払っていいのか」という問題は生じますが、それは、株式会社が寄付や債務引き受けをしているのと同じであり、当然、負の価値のものに現金を払うことはできると考えます。
 したがって、実質債務超過会社を、株式以外の対価又は無対価で吸収合併することは、可能です。

 では、対価が株式の場合は、どうでしょうか。

 会社法でも、無償で第三者に株式を発行することや、まして「債務」を払込みして(会社に債務を引き受けさせて)、株式を発行することはできません。株式は、出資をした者に交付される権利ですから、出資をしない者には交付できないのです(株主無償割当を除く。)。

 しかし、債務超過である事業(資産と負債の固まり)を会社に承継させるということは、債務のみを承継させたり、何の財産も会社に出資しないことと同義でしょうか?

 事業の中には、通常、資産が含まれますが、この資産の評価は、人それぞれです。

 例えば、1足3万円のスケート靴でも、浅田真央ちゃんが履いたスケート靴ならば、30万円出しても買いたいという人がいます。萌えている秋葉系なら100万でも出すかも知れません。そして、「浅田真央」くらいになれば、その30万円という価格は、公正な価値として評価されるような気がします。

 ところが、葉玉が、そのスケート靴を30万円で買って、自分で履いてしまったら、そのスケート靴の公正な価値は暴落し、3000円になります。
(「そもそも、履けないだろ!」というツッコミをお願いします)。

 ところが、ところが、新・会社法100問を買ったフィギュアファンの中には、「これは、浅田真央と、葉玉匡美という、通常では考えられないコラボレーションが実現した靴である。そこに希少性がある」と考えて、そのスケート靴を150万円で買う人もいます。
(「ない、ない!」というツッコミをお願いします)。

 このように資産価値には、主観的な価値というものもあり、しかも、例えば、そのフィギュアファンが靴を買った後、「葉玉匡美が史上初の10回転ジャンプに成功した」という凄いニュースが流れると、その靴は、市場でも300万円で取引されるようになることもあるのです。

 そうなったら、その人は「先見の明がある人」ということになり、企業で言えば、「カリスマ社長」と呼ばれるでしょう。

 しかも、譲り受ける財産が事業である場合には、ノウハウ、取引先等との関係、雇用関係等の人的資源なども、経済的には大きな価値を持ちます。
 現行法でも、これらを合併時に「のれん」という名で資産化し、「簿価債務超過だが、のれんを足せば、実質債務超過ではない」等と言うことで合併を有効とするわけですが、のれんの客観的評価自体が非常に難しいのに、「のれんがあるから実質債務超過ではない」と言うくらいならば、最初から「実質債務超過」という概念を捨てればいいのにと思うのは、私だけでしょうか。少なくとも会社法の組織再編の会計処理における「のれん」は、もっとドライな概念だと思います。

 このように資産、特に、事業には、主観的な価値がある以上、単に債務のみを承継するときと、事業を譲渡するときとを同列に取り扱うことはできません。

 存続会社が、「消滅会社の資産の真の価値は、客観的な価値よりも高い」と判断したとすれば、客観的には債務超過の事業であったとしても、その存続会社にとっては、価値のある財産が出資されたと評価すべきであり、それに対して、株式を発行することは論理的にも、実際上も、問題はないと思います。

 もちろん、その資産価値の評価に誤りがあれば、取締役の任務懈怠責任の問題は生じますが、それは、例えば、ライブドアの株式を購入した会社と同じ問題です。


 実質債務超過の話は、情緒的になりがちで、あまり好きな論点ではありません。

 しかし、私は、実質債務超過という、要件すら不明確で、事実認定上も極めて困難な概念を合併の無効要件とすれば、簿価債務超過の会社の吸収合併を認めた意味を没却すると思いますし、合併する会社に、合併前の出資など無駄な手続きをすることを強制するだけで、百害あって一利なしだと思っています。

2006年1月21日 (土)

委任状勧誘と議決権の代理行使

 証券取引法と会社法の関係第3弾は,委任状勧誘内閣府令です。

 株主総会の議決権は,株主が株主総会の会場に行って,直接,行使するのが原則です。個人株主は総会出席を面倒くさがるので,最近は,個人株主に会場に来てもらおうと,いろんな企画やってますよね。

 エイベックスの株主総会の直後に浜崎あゆみや大塚愛がコンサートしたり。
 どうせやるなら,総会の議長をあゆにすれば,総会屋が長々質問しているときに,議長が
「じゃあ,一曲歌います」
なんていうと大歓声で,総会屋の質問どころではなくなるだろうし,議長が
「みんなー,1号議案,賛成でいいかな〜」
なんていう進行をすれば,会場全体が
「YES〜」
の大合唱になり,どんな議案でも通してくれそうです(笑)。

それは,ともかく,会社法は,株主総会に足を運べない人等のために,
1 議決権の代理行使(310)
2 書面による議決権行使(311)
3 電磁的方法(IT)による議決権行使(312)
という,いくつか手段を用意してます。
 また,313条の議決権の不統一行使は,株式の受託を受けた会社が,実質的な株主である委託者のために,議決権を行使する場合等のための規定なので,実態的には,議決権の代理行使に類似する部分があります。

 これらを,一覧表っぽくまとめると,次のようになります。
        行使者     誰のため
1 代理行使  代理人      株主
2 書面    株主       自分
3 IT     株主       自分
4 受託者   株主(受託者)  委託者

それから,どの方法も,多かれ少なかれ事務処理上,面倒くさいところがありますが,
1 代理行使  会社は必ず認めなければならない
2 書面    株主1000人以上なら会社の義務
        それ以外の会社は任意
3 IT     会社の任意
4 受託者   会社は不統一行使を拒むことはできない。
ということになっております。

 以上の4つの方法のうち,代理行使に関係して,証券取引法の「雑則」の中に「何人も、政令で定めるところに違反して、証券取引所に上場されている株式の発行会社の株式につき、自己又は第三者に議決権の行使を代理させることを勧誘してはならない。 」(194条)という規定があります。

 この「政令で定めるところ」の政令が,さらに省令に中身を委任していて,その委任に基づいて制定されているのが,委任状勧誘内閣府令(上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令)です。

委任状勧誘というのは,会社側と大株主側が,株主総会で役員の選任等を巡って争うような場合に,他の株主のところに行って「自分宛の委任状を書いてくれ」と頼んで回ることです。

 委任状勧誘をするときに,議題や議案について何の説明もないまま,委任状勧誘をすると,株主総会の決議の適正性が確保できないので,証券取引法・委任状勧誘内閣府令は,委任状等に議題等の必要事項を記載して、委任状・参考書類を被勧誘者に交付しなければならないこととしています。また,勧誘者は,その委任状等を財務局長に提出しなければなりません。

 例えば,「東京スタイル 委任状勧誘」でググると,村上ファンド(M&Aコンサルティング)が東京スタイルの委任状勧誘の差し止めを求めた旨のプレスリリースなんかがでてきて,イメージがわいてきます。

 会社は,議決権の代理行使を認めなければなりませんが,委任状の勧誘(委任状の提供等)をするかしないかは,会社の自由です。
 ただし,会社が,委任状勧誘をするときは,委任状勧誘内閣府令で義務が生じることになるわけです。
 なお,会社だけではなく,株主や第三者が委任状勧誘をやる場合にも,委任状勧誘内閣府令が適用されます。

 この委任状勧誘内閣府令は,一見,会社法チックな規定なんですが,商法で,株主総会に関する開示が不十分だった昭和23年,上場会社の株主総会の適正性を確保するために,証券取引法に基づいて委任状勧誘規則として制定されました。

 その後,昭和56年に,商法で,議決権行使書面を用いた書面投票制度が導入され,議決権行使書面と株主総会参考書類による開示が整えられたので,今では,上場会社では,議決権行使書面等を招集通知に添付するのが一般化し,委任状勧誘は低迷しております。ただ,先輩格の「委任状勧誘規則」は,会社だけではなく,株主による委任状勧誘等も規制していますので,ずっと残っているのです。

 では,委任状勧誘内閣府令と会社法とは,どんな関係に立つでしょうか。

 会社法は,会社が,株主に対し,証取法・委任状勧誘内閣府令に則った委任状を交付した場合は、その委任状によって情報開示がされ,株主が簡易に議決権の代理行使をすることができるようになるので,株主1000人以上の会社でも,議決権行使書面による議決権行使をさせなくてもよいことにしています(298Ⅱ・省令)。
 先輩に礼をつくしたというわけではありませんが(笑),要するに委任状を送れば,議決権行使書面は送らなくてよいということです。

 敵対的買収防衛策が成熟してくれば,proxy fight(委任状合戦)が激しくなるという見解もあり,仮にそうなれば,委任状勧誘内閣府令が,もっとクローズアップされてくるのでしょうけど,果たしてそういう日がいつくることか。

公開買付けと会社法

 公開買付けというのは、すべての株主に対し,平等な条件で株式を売却する「機会」を与えるための証券取引法上の制度です。

 公開買付けには,①市場外の買付で大株主になる場合の公開買付けと,②発行者が,市場外で自己株式を取得する場合の公開買付けがあります。

①大株主を目指す公開買付について 
 株式市場の中で取引が行われる場合には、投資家に平等に売却の機会が与えられますが,株式市場の外で,上場株式が取引がされると、一部の株主だけが好条件で売ることができます。
 素人考えだと「仲のいい人から高く買ってもいいんじゃないの?」と思うのですが,そこで大量に株式を取得した大株主が支配権を取得してしまうと、残りの株主は,安く買いたたかれてしまう可能性が出てきてしまうのです。

 もちろん,売る売らないは株主の自由ですが,特定の株主が支配権を取ると,株式の魅力が薄れますし,最悪の場合,「上場廃止にするから,公開買付をします」と言われ,事実上,売却を強制される可能性もあります。

 そこで,このような問題を防止するため,有報提出会社の株券等を,証券取引所の市場外で、買付等を行って,発行済み株式の3分の1以上の株主になる場合等には,原則として公開買付けの手続によらなければならないこととされているのです(証取27条の2Ⅵ)。

 この公開買付けは,大体,次のようなルールで行われます。
a.公開買付期間は,20〜60日間
b.買付価格は,応募株主について均一
c.公開買付期間中は,それ以外の方法で買い付けることができない。
d.応募株主に不利な条件変更は不可。
e.原則として,買付け申込みの撤回はできない。
f.応募主は,期間中はいつでも解除できる。
g.応募株券数の総数が買付予定の数を超えるときは,按分比例で買付を行う旨の条件を付すこともできる。

②自己株式の公開買付について
 発行者が,市場外において自己株式を取得する旨の決議をした場合は、発行者は、原則として公開買付けの手続きをしなければいけません(証取27条の22の2)。株主間に不平等が生じないようにするためです。
 ただし,株主総会の決議に基づき特定の株主から取得する(会社法160条1項)については,公開買付義務はかかりません。

 さて,ここまでの知識を前提に,東証のTOSTNETについてお話しします。

 上場株式の持ち合い解消ブームのときに,銀行等が大量に株式を売却すると,株価が下がるので,配当可能利益のある会社は,自己株式の取得で対応しました。

 しかし,通常の株式市場で大量に取得すると,株価がつり上がり,取得コストがふくらみますし,逆に,市場外で取得しようとすると,公開買付義務が生じてしまい,コストがかかります(数千万円以上です)。

そこで,考えられたのが,「立会外取引」いわゆるTOSTNETの利用です。

 このTOSTNETは,普通の市場が閉まっている「立会時間外」に行われるものですが,ある銘柄の注文についてネットワーク上で匿名で取引の相手方を探し出し、個別に条件交渉を行い、取引を成立させたり(TOSTNET-1),1日3回、立会時間外に売り買い注文を集約して、取引を成立させる(TOSTNET-2)というように,理論的には,「最初から特定の人と特定の人が売買することが決まっておらず,誰でも買い主になれるチャンスがある」ので「市場取引」にあたると言われています。

 そのため,このTOSTNETを通じて取得する場合には,原則として,公開買付義務は,かかりませんでした。

 なお,TOSTNET-1は機関投資家等しか利用できず,TOSTNET-2だと個人投資家も使えるので,東証は,事前開示型TOSTNET-2(発行会社が,事前に買付情報を開示した上で,TOSTNET-2で買付をやることにより,株主に平等に売却の機会を与える)をおすすめしており,持ち合い解消のための自己株式の取得は,TOSTNET-2を用いて,②の公開買付をせずに,行われることが多かったと言われています。

 もちろん,TOSTNET-1を使ったり,事前の開示をやらずに,TOSTNET-2でいきなり大量の自己株式を買い付けた例がなかったとは言い切れないのではないかと思うのですが,この問題が顕在化したのは,ライブドアがTOSTNET-1を用いてニッポン放送の株式を大量に取得したときでした。

そして,ライブドア問題以後,ToSTNetなど証券取引所の立会外取引によって、買付け後の株券等所有割合が3分の1を超えるものについても、同じく公開買付によらなければならないこととされたのです。

では,以上の公開買付やTOSTNETによる取引と,会社法は,どのように関係するのでしょうか?

①の大株主を目指す公開買付については,特に会社法とは関係ありません。

これに対し,②の自己株式の公開買付やTOSTNET等との関係を整理すると,次のようになります。

(1)市場から取得
 発行会社が,市場取引によって自己株式を取得する場合は,株主に売却の機会を与えるための会社法上の手続(ミニ公開買付・157-160)は不要です(165)。TOSTNETは,市場取引なので,これにあたりますね。
 なお,市場からの取得は,原則として株主総会の決議(156Ⅰ)が必要ですが,定款で取締役会に授権している場合には,取締役会決議で足ります(165Ⅱ)。上場企業の多くは,この定款を置いています。

(2) 市場外で取得
①株主総会決議で特定の株主から取得(156Ⅰ,160Ⅰ)
 (a)市場価格未満で取得する場合には,ミニ公開買付は不要です(161)。
(b)それ以外は,ミニ公開買付が必要となります。
なお,この場合は,証取法の公開買付義務はかかりません。

②株主総会決議で不特定株主から取得又は定款の授権による取締役会の決議で取得(165Ⅱ)
 発行会社は,証取法で,公開買付義務を負いますが,公開買付により自己株式を取得する場合は,会社法上のミニ公開買付は不要です(165)。

2006年1月20日 (金)

株式交換と株式の交換契約

巷で「株式交換」という用語が飛び交っております。
あまり騒がれすぎて、株式交換が悪者になると可愛そうなので、今日は株式交換についてお話します。

株式交換・株式移転は、平成11年商法改正で、「完全親会社」を作り易くするために導入された制度です。

株式交換や株式移転は、税制上の優遇措置があるためか、大変、頻繁に使われている組織再編の手法であり、皆さんが「株式交換 お知らせ」という用語でググって見れば、ぞろぞろと有名な会社がリストアップされてくるはずです。

株式交換は、シンプルに説明すると、
『株主の持っている株式を、無理矢理、全部取り上げて、他の会社のものにしてしまうこと』
です。もうちょっと、正確に定義すれば、「株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させること」(会社法2条31号)ということになります。

アメリカで「株式交換」というと、「株式の交換契約」、つまり、株主が、株式と株式を任意に交換することをいうのが普通です。例えば、次のようなものです。

 【要件】「A社の株主」とB社で契約
      
【効果】
     A社株式
A社の株主 

2006年1月18日 (水)

差し止めの法的効力

ここ数日間、株主権についてお話ししていますが、「差し止め請求権」について、若干補足したいと思います。

昨日、「新株発行等差し止め請求権」が株式の分割等に適用があるかという論点をお話ししました。

いくつかの法律構成の中で昨日お話ししなかった法律構成として「取締役の違法行為差し止め請求権」があります。

例えば、取締役が、取締役会の決議がないのに株式の分割をしようとしているときに、それを「取締役の法令違反行為によって『会社』に回復できない損害を生じさせるおそれがある場合」に該当すると構成するわけです。

一見、良さそうな構成なのですが、2つの問題点があります。

1点目は、株式の分割により「会社に損害が生じるか」という点です。

 株式の分割は、株式の数を増やすだけで会社に損害を生じさせないというのが通説ですが、「無効な株式の分割が行われると、発行した株券を回収しなければならないとか、株主総会の決議に瑕疵が生じたりとか、色々会社に損害は存在する。」などと反論は可能でしょう。それらが「回復できない損害」といえるかという問題はさらにあります。
 私は、この点は、気合いの問題だと思っています(笑)。

問題は、2点目であり、取締役の違法行為差し止め請求権の被告(仮処分だと債務者)は、「取締役」ということです。

既にお話ししたとおり、違法行為差し止め請求権は、株主が、会社のための訴訟担当として、取締役に差し止めを求めるものであり、会社を拘束するものではありません(会社に対し本人として判決の効力が及ぶということと、差し止めに基づく不作為義務を負うということは別問題です)。

そのため、この違法行為差し止め請求権、特に、差し止めの仮処分は、その効果が非常に「ショボい」ものになっています。

例えば、取締役が、会社財産の譲渡の差し止めの仮処分を無視して、会社の財産を譲渡したとしましょう。

その仮処分は、取引の相手方を拘束するものではありませんから、その譲渡が無効になるわけではありません。

単に取締役の任務懈怠責任が生じるだけです。

でも、もともと法令定款違反の行為を差し止めているのですから、別に差し止めの仮処分をかけなくても、取締役に対し任務懈怠責任を問えるわけで、取締役に対する「警告」以上のものが何もないんですよね。

素人の人は、「差し止め」というと、屈強な執行官がやってきて「こらっ、取締役よ。悪いことはゆるさんぞ!」なんていいながら、取締役を羽交い締めにして止めてくれるのではないかという誤解するのですが(すいません。そこまでは、誤解してないかもしれません)、実は、以上のように、取締役の違法行為差し止め請求権は、法的には「何の効力もない」ものなのです。

このことからも分かるように、昨日お話しした「財産権侵害の差し止め請求権は、なかなか認めてくれない」という最大の原因は、「差し止めを命じるのはいいんだけど、それが何の役に立つの?どうやって、強制力を持たせるの?どうせ無視されたら、損害賠償しかできないでしょ。」という問いかけに答えきれないというところにあります。

継続的不法行為、例えば、「ジャイアンが、毎日、隣の部屋で歌っている」とかいう時には、「大声で歌うのを止めないと、お金を取るよ」という間接強制ができます

しかし、取締役の違法行為は、普通、取締役が毎日職場で歌を歌うというようなものではなく、一発限りの法律行為でやることなので、間接強制が効きません。

もし、その仮処分に実効性をもたせようとするならば、「差し止めを無視したら、その法律行為を無効にする」という点において強制力をもたせるしかないのですが、取締役の違法行為差し止め請求権は、「取締役」のみを債務者とし、法律効果の帰属する会社にも取引の相手方にも何の拘束もかけないという点において、そうした効力を持たせる正当性に欠けるのです。

したがって、この取締役に対する違法行為差し止め請求権を本案として、株式の分割の差し止めの仮処分を認めたとしても、その差し止めを無視した株式の分割を無効にすることは、他の法律行為を無効とすることができないのと同様の理由で、無理ではないかと思います。

 これに対し、新株発行等差し止め請求権は、会社を債務者としますので、その差し止めの仮処分は会社を拘束します。
 そのため、「差し止め仮処分を無視して株式を発行した場合には、その株式の発行行為を無効とする」という判例の見解が採用できるのです。

 そして、その見解を前提にすれば、「事前に差し止めを受けていない場合には、株主総会の特別決議なしで有利発行したって発行した以上有効」という別の判例の結論に正当性を付与することもできます。

こういう話をしていると、鋭い人は、株式の分割の差し止めについて、もう一つのことに気付くはずです。

それは、「法律に違反してなされた株式の分割が、有効になる場合があるか?」ということです。

法律違反の株式の分割が、差し止めの有無にかかわらず、絶対的に無効であり、いつでも、誰でも無効が主張できるとするならば、事前の「差し止め」を行う法的意味はありません。

逆に、株式の分割も、新株発行のように、「差し止めがない場合には、一旦、発行された以上有効」という結論を採るならば、会社を債務者とする差し止めの仮処分を認める必要性が高いということになります。

この「差し止め」と「発行の有効性」の関係は、上記の関係でなければ理論的におかしいとことではないものの、差し止めの本質を考えていくと、関連づけは必要ではないかと思います。

なお、「手続が違法でも、発行したら有効になるか?」という論点は、実は、「新株発行無効の訴えの対象となるか?」という論点と、ほぼ同一の議論として捉えられているので、これは、また別の機会にお話をします。

ただ、私は、株式の分割を無効にすると結構しんどいので、新株発行の処理に近づけた方が何かと都合がいいと思います。

株式の分割が無効になると、例えば、2株を1株にする処理が必要であり、すでにバラバラに流通している2つの株式を、元に戻すのは著しく困難であり、特に、株式の分割後に、さらに新株発行があったりとかするとややこしい。

 それに加えて、「株式の分割は無効の訴えの対象とならないから、いつまでも無効を主張できる」としてしまうと、株主総会の決議の効力はどうなるかとか、分割後に合併したらどうなるのかとか、考えたくもないような問題が多数起こります。

しかも、株券不発行の世界になると、株券番号がなくなりますので、一旦分かれた二つの株式をもとに戻すのは、分かれたカップルのヨリを戻すよりも、むちゃくちゃ難しく、新たに別のカップルを作るという処理、つまり、「無効判決が出たときに、株主の保有株式数を半分にして、半分になったらお金で解決する」という処理でもしないと不可能です。

ということで、整理しなければならないことがたくさんありすぎて、しかも、難問だらけですが、メモ代わりに現時点の考えを書いてみました。

新株発行差し止め請求権

今日は、いつもより、このブログへの訪問者が非常に多く、「ライブドア効果なのだろうか?」と不思議に思っております。マスコミの方から、何度か「葉玉さん、ブログ見てますよ」などと言われたこともあるので、そういう疑問がわいてくるのですが、私は、特捜部ではありませんので、このブログを見ても捜査状況や取調予定は載っておりません。悪しからずご了承ください。

普通、3年くらいで転勤するのが検事の常ですが、私は、民事局に丸5年もいまして、転勤へのリーチがかかっています。というより、リーチがかかっていながら、アガリパイを何度か見逃してもらい、さらに、「ロン!」とか言われても、無視してマージャンを続けているようなものですから、地検の皆さんが頑張っている姿を見ても、「俺ももうすぐかなあ・・」等と他人とは全然違った感想をもったりします。個人的には、電子債権をやりとげていきたいなという気持ちもありますが、こればかりは神様が決めることなので、春を待つばかり。一つ心配があるとすれば、私が他に移動しても、このブログを続けられるかどうかですが・・・それも神様だけが知っていることなので、今は、笑って前に進みましょう。

 今日は、株主権の第4弾、「新株発行・自己株式処分差し止め請求権」(210条)です。

 これまで、株主権について
 訴訟担当系(対取締役) 代表訴訟 取締役の違法行為差し止め請求権
 形成訴訟系(対会社等) 合併無効の訴え・解任の訴え
という二つの類型をご説明しましたが、新株発行等差し止め請求権は、株主が
(1)法令定款違反又は著しく不公正な方法により行われる場合であって、
(2)株主が不利益を受けるおそれがあるとき
に、その新株発行等を差し止めるという「株主個人の請求権」です。

 (2)の要件からも分かるように、この権利は、株主の個人的利益を保護するためのものであり、その点が、訴訟担当系や形成訴訟系と全く異なるところであり、どちらかというと、第三者の役員に対する損害賠償請求権(429条1項)と共通点があります。

 この請求権は個人的利益の保護を目的とするので、どんな株主でも、単独で、かつ、継続保有要件も要求されずに、この請求権を行使することができます。
 被告は、会社であり、取締役ではありません。会社が被告となることからも、株主が、会社の訴訟担当ではないことがわかりますね(同じ「差し止め」でも取締役の違法行為差し止め請求権の場合は、会社は、むしろ原告側訴訟担当の本人にあたる立場でした。)

 新株発行等差し止め請求権は、ほとんどが、経営権争いが起こったときに、代表者が勝手に自分の仲間に対して新株を発行するという事件で使われます。しかも、株主の主張もパターンが決まっていて、
① 特に有利な価格での発行なのに、株主総会の特別決議を経ていないのが、「法令違反」にあたる
② 経営権維持の目的で発行したのが、「著しく不公正な方法による発行」にあたる
という主張が、ほとんどです。

 ①は、上場株式だと「3ヶ月の平均株価の10%引きまではセーフ」というルールがかなり一般化しています。ただ、例えば、発行済株式総数の10%の数の新株発行であれば、10%引きをやっても既存株式の価値は1%弱しか低下しませんが、発行済株式の3倍の数を10%引きで発行すると、既存株式の価値は9%くらい低下するので、本当は、新株の数も重要な要素のはずです。また、3ヶ月の平均株価についても、その間に、新株発行の決定の直前に、株価を急激に上昇させる原因が生じ、高騰したときに機械的に「3ヶ月の平均株価だと、こんなに安くなっちゃう。今なら、すごく安く発行しても特に有利な発行にならないぞ。」などと悪いことを考えていると、裁判所からシッペ返しが来るかもしれません。「発行数」にしても、「平均株価」にしても、やりすぎは禁物です。

 ②について、判例は 取締役がもっぱら経営権を維持する目的で行う新株発行は、「著しく不公正な方法による発行」にあたると判断することが多く、新株発行の目的によって差し止められるかどうかが決まるため「主要目的ルール」と呼ばれています。

 この主要目的ルールを、「資金調達目的がちょっとでもあればセーフだけど、なければアウト」と分析する人もいますが、私は、資金調達に限らず、「正当な目的による新株発行であればセーフであり、それがなければアウト」というのが判例の流れだと思っています(ニッポン放送の新株予約権発行差し止め仮処分の高裁決定でも資金調達以外の目的であっても、不公正にあたらないとされる4類型が示されました)。

 そして、「経営権の維持」というのは正当な目的にはあたらないので、経営権の維持以外になんらまともな目的がなければ、「著しく不公正な方法による発行」として差し止められると考えるべきでしょう。

 なお、判例の中には、「正当な目的があれば、経営権の維持の目的が混在したとしても、セーフ」というルールも見受けられるので、結局、経営権の維持以外にどんな目的があるのかが、最終的な争点になるようです。

敵が現れてから、取って付けたような「事業計画と資金調達計画」を作ってもどうかなあと思いますが、「マトモな計画ならばセーフ」とする判例もあり、ここらへんの「ビミョー」なところは、裁判所の胸一つということにならざるをえないですね。

以上が、新株発行等の差し止め請求権の一般的な説明ですが、新株発行等の差し止め請求権が、株式無償割当て,株式の併合、株式の分割に対して適用されるかという大問題があります。

これについては、論文を書きたい思っていた矢先に、弥永先生が商事法務で大変参考になる論文を発表されました。私は、弥永先生の分析に大部分賛成なのですが、私なりに頭を整理をして、差し止め請求権のデマケ(役割分担)をしたいと思っています。

まず、形式論理だけをいいますと、210条は、文言上,株式無償割当て,株式の併合、株式の分割に対しては,直接適用されないのは明らかです。

 実質的にも,これらの行為は,株主の保有株式数に応じて平等に行われるものであり,「株主が不利益を受けるおそれ」が類型的に認め難いので、株式無償割当などに明文の差し止め請求権を認めていない会社法の法制は、それなりに合理的です。

 もっとも,保有株式数に着目した条項が付された種類株式については,株式無償割当等による保有株式数の増減により,実質的に特定の株主に不利益を及ぼすおそれがあります。例えば、発行済株式総数の20%以上の株式を保有している株主は取得請求権を行使することができないという条項のついた取得請求権付株式を無償割当てした場合、20%以上保有している株主だけに不利益が生じます。

 それで、私は、このように特定の株主に不利益を与えるような形態の株式無償割当等は、210条の類推適用により,差し止め請求権を認めることができるものと考えています。

 また,株式無償割当等が特定の株主に不利益を及ぼさない場合であっても,手続等に法令又は定款違反があり,争いがある権利関係について株主等に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要であるときは,仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)として,差し止めの仮処分を求めうる場合もあると思います。

 もちろん、例えば、取締役会決議の無効確認を本案とする株式の分割の差し止めの仮処分を適法とするには、それなりに高いハードルがあります。

 本案が差し止め請求権ではないのに、差し止めの仮処分が出せるかという論点もありますし(職務執行停止の仮処分とか、議決権行使禁止の仮処分とかも似たようなものなので、不可能ではないと思いますが、やはり一山超える理屈が必要なところです)、「取締役会決議の無効確認の訴え」というのが適法な本案と言えるかというのも気になるところです。

ただ、言い方は悪いですが、「裁判所は、止めるべきときは、なんとしてでも止めるだろう」というのが私の感覚であり、不適法な手続きに基づき株式が発行されてしまうと、現状回復が著しく困難になる場合もあるので、仮の地位を定める仮処分は、「ありうべき方法」だと考えられます。

 以上述べたほかにも、不法行為に基づく差し止め請求権とか、物権的請求権類似の妨害予防請求権とかが考えられますが、差し止めというのは①実態に即した筋の通った理屈と、②株主側の窮状と、③会社側のやりすぎの3拍子が揃ったときには、なんとかなるので、まずは①の筋の通った理屈の研究を進めたいと思います。

2006年1月17日 (火)

株式の分割と株価

 一昨日、ゴリ江もんとか書いたら、いきなりライブドアが話題になってしまいました(汗)。想定の範囲外とは、まさに、このことです。

 証券取引法違反については、ガサ入れがあった以上、多くを語ることはできませんが、株価が上昇した原因が株式分割だったとか、株式交換を使った子会社化だとか、会社法がらみの話も報道されています。

今日は、ホットなニュースとして「株式の分割は、株価を上昇させるか」という話をしましょう。

論点<303>に書いていますように、株式の分割は、通常、株価の「引き下げ」の手段と把握されています。

もちろん、これは、「一株あたりの純資産額(単価)を引き下げる」という意味で言われているものであり、株主単位で見ると、株式の分割は、法律上は、株式の価値に対して中立的です。

株価を純資産方式で算定するという前提に立って具体例をあげると、
「1000万円の純資産の会社が、株式を1000株発行しており、ある株主が、その株式を10株持っているとする。その株主は、1株1万円で合計10万円分の株式を持っているが、ここで、1対2の株式の分割をすれば、その株主は、1株5000円の株式を20株持つことになるので、合計10万円分の株式を持っているという点には変化はない」
ということになります。

ところが、この説明は、株価を純資産方式で算定するという上場株式ではありえない前提に立っており、「株式の分割が株価を上昇させるか」という問いに対する答えとしては、はなはだ不十分です。

それは、上場株式の株価は、株式市場における売主と買主の意思によって決まり、一株あたりの純資産額も、一株あたりの利益も、売買価格決定のための一つの参考資料に過ぎないからです。

上場株式という枠の中で、株式の分割が株価の上昇要因になるかという点については、以前、データを調べたことがあり、結論としては、「上昇要因になることもあれば、下降要因になることもある」というものでした。

ここでは、株式の分割が上昇要因となる場合について、次の3つの原因を説明します。

1 需要の喚起
「株式の分割により、単価が安くなって、今まで買えなかった人でも買えるようになり、需要を喚起するから株価があがる」というのが一番よく使われる説明です。

つまり、どんなに美味しいケーキでも、1ホール1万円で売っていると、買う気になる人は少ないけれど、1ホールを12個に分けて1個1000円で売っていると「彼女と一緒にラブラブしながら食べられるかも・・・」等と思って、つい2個2000円で買ってしまう人が、沢山出てくるという理論ですね。

ある程度、説得的な説明ではありますが、実際には、どこまで影響があるか、よく分かりませんし、単価がある程度下がってしまうと株式分割の効果は限定的にならざるをえません。

 例えば、先ほどの1個1000円のケーキを、さらに100分割して10円で売り出したからと言って、お客さんが増えるわけではないということです。

 むしろ、10円まで下がってしまうと、「ありがたみ」がなくなり、かえってお客さんから「10円で売っているなんて、マズいか、賞味期限切れか、どちらかだ」などと勘ぐられれてしまい、10円でも買ってもらえなくなるリスクもあります。

もちろん、株式市場は不思議なもので、2つか、3つの会社で、株式の分割を原因とする株価上昇が生ずると、「株式の分割をする会社は株価があがる」というブームが起こって、そのブーム以外に何の根拠もないまま、株式の分割が株価の上昇原因になることもあります。

2 株式の分割は成長の証であり、配当が増えるのではないかという幻想
 次は、理屈も何もない株価上昇原因についてお話しします。
 それは「一割配当」です。「一割配当」とは、「株式の額面額の一割の金額を毎年利益配当する」という慣習のことをいいます。
 「えっ、額面って何?一割配当って全然意味わかんなーい。」と言う人、あなたは正しい。今の世には、額面株式は存在せず、一割配当は、現在では、法律的にも経済的にも何の意味もなく、その風習自体廃れつつあります。

 ところが、世間では、上場会社が長く長く「一割配当」という風習に則り、「どんなにその年に利益が出ても、50円額面の株式について5円の配当をすればよい。逆に損失が出ても、必ず5円の配当はする。それが、安定経営というものだ。」と言い続けてきたために、世間の人の中には、「1対2の株式の分割をすると、配当が2倍に増える。それに、そんなに配当が出せるということは、きっと成長している会社に違いない。」と勘違いする人もいるんです。

似たようなものとして、その昔、配当可能利益の資本組み入れを行った上で、株式の分割をすることを「株式配当」と呼んでいたことも影響し、そのような株式の分割を行うと、「おーっ、株式1株につき1株が配当として配られるんだってよ。1株1万円だぞ。すごい。財産が倍になっちゃうんだ。」と勘違いする人もいます。

 勘違いだろうとなんだろうと、株式を欲しがる人がいれば、株価は上がり、その傾向がはっきりすると、勘違いだと分かっている人でも、「株式の分割は買い」という判断をするようになるんですね。本当に勘違いは怖い。

3 供給不足
 以上の1と2は、昔から言われていたことですが、ライブドアの株価が上がったのは、第3の要因によるものだと言われています。これが、株式の分割による供給不足の問題です。これも具体例を挙げて説明しましょう

 株式会社民事薬局が1万株の株式を発行しており、そのうち、安定株主が9000株保有しているので、株式市場には、1000株が流通しているとします(時価1万円)。
 葉玉は、「民事薬局は内部統制に欠陥があるから、株価が下がるに違いない」と考え、証券金融会社から10株の株式を借りてきて、その株式を1万円で売りました(いわゆる空売りです)。
 葉玉は、契約により6ヶ月後には、必ずその10株を証券金融会社に返還しなければいけませんから、その間に株式市場から株式を買い戻さなければいけません。
 空売り後、民事薬局の株価は、どんどん下がり、葉玉が喜んでいところ、もうすぐ6ヶ月の期限というところで、民事薬局は「1対100」の株式の分割を行いました。

 さて、葉玉が、期限内に証券金融会社に返還しなければならない株式は、株式の分割により10株×100倍の1000株になります。
 他方、市場に出回っている1000株が、株式の分割の「効力発生日に」、1000株×100倍の10万株になるのならば、需要と供給は釣り合うのですが、実は、効力発生日に市場に出回っているのは、1000株のままで、残り9万9000株は、効力発生日後、約40日経たないと、株式市場に供給されないのです。。
 それは、株式の分割によって増加する分の株式について「株券」を発行するのに、それだけの日数が必要だからです。

 そのため、葉玉は、期限までに1000株を株式市場から買い集めなければならないのに、市場には1000株しか出回っていないという究極の供給不足に悩まされることになります。こうなると葉玉は、「いくら金を払ってでも、急いで全部買い集めるしかない」という状態に追い込まれ、しかも、葉玉と同じ境遇の人も、一斉に買い注文を出さざるをえなくなっているので、何日もストップ高が続くような相場展開になってしまうのです。

 皆さんの中には、「40日後には、新株が供給されるのだから、株価は必ず下がるはず。今のうちに空売りすれば、大もうけだ」と考える人がいるかもしれません。

 しかし、そこで空売りをした人は、その運命の40日後に、民事薬局が「我が社は、株主様のために、ふたたび1対100の株式分割を行うことになりました。」という発表を聞いて、背筋の凍る思いをすることになるでしょう。

 なお、このように極端な割合の株式の分割により供給不足を引き起こす手法は、本来、株券等保管振替制度では通用しないものです。現在、上場株式の株式数の約7割が株券等保管振替制度の預託株券となっていますが、この預託株券については、法律上は、株式分割の効力発生と同時に、株券が発行されていなくても、預託株券を増加させる取扱いが可能となっています(みなし預託)。

 ただ、これまでは、預託されていない株券の株主が新株を40日後からしか売却できないこととの公平を図る観点から、預託株券についても、新株券が発行されない限り、売却できないこととされていましたので、結果的に、供給不足による株価の高騰が生じてしまっていたわけです。

 この供給不足を利用する方法は、証券取引所の指導や、株券保管振替制度の運用の改善により、使えなくなっているものの、法律家にとっては、全く想定外の株式分割の利用法であったことは間違いありません。

2006年1月15日 (日)

役員の解任の訴え

 株主権の第3弾は,「役員の解任の訴え」(854条)です。

 昨日の取締役の違法行為差止請求権は,代表訴訟の親戚でした。
 これに対して,本日の役員の解任の訴えは,形成訴訟で,どっちかというと,合併無効の訴えなどの組織に関する訴えに近い制度ものです。

 解任の訴えは,取締役の不正行為の存在を前提とするので,なんとなく違法行為差し止め請求権っぽい感覚があるかもしれませんが,解任の訴えの被告は「『会社』と役員」(855条)ですから,「会社の〜権」について株主が訴訟担当になるとするような構成は不可能です(会社が,会社に解任請求権をもつわけないですよね)

 では,具体例をあげながら,解任の訴えはどんな使われ方をするか見てみましょう。

 東証一部上場企業の「株式会社ハダポン放送」の代表取締役葉玉匡美が会社のお金をキャバクラ嬢につぎ込んだということが新聞で報道されました。
 その記事を見たゴリ江もんは,「これは,ハダポン放送を乗っ取るチャンスよ。葉玉を追い出して,私が代表取締役になるわ。」と考えたとします。
 どういう手順を取れば,それが実現できるでしょうか。

 ゴリ江もんが,代表取締役になるためには,通常,ハダポン放送の取締役を全員解任して,自分の味方を取締役に選任する必要がありますから
(1) 総会招集権(297)により臨時株主総会の招集手続きをしてもらう。
(2) 議題提出権(303)による「葉玉取締役ら取締役全員の解任の件」「取締役選任の件」という議題を提出する。
(3)議案提出権(304),議案の招集通知への記載請求権(305)により「ゴリ江もんら仲間達を取締役に選任する」という議案を提出し,招集通知に書いてもらう。
(4)臨時株主総会で,解任議案・選任議案を可決する。
という手順を取ります。

 まず,(1)から(3)までの権利行使をするためには,ゴリ江もんは
(1)は,6ヶ月前から議決権の3%以上の議決権の継続保有(総会招集はコストがかかるので,(2)(3)より要件が重くなってます。)
(2)は,6ヶ月前から議決権の1%以上又は300個以上の議決権の継続保有
(3)の議案提出は1株以上(これは継続保有要件なし),議案記載請求権は6ヶ月前から議決権の1%以上又は300個以上の議決権の継続保有
の要件を満たす必要があります。

 ゴリ江もんは,買収のプロでしたから,半年以上前から3%以上のハダポン放送の株式を取得し,すぐに名義書換もしていました。それで,ゴリ江もんは,公開買付をして,株式を買い集め,(1)から(3)の権利を行使して,臨時株主総会を開きました。

 ここで,ゴリ江もんが,50%以上の株式を取得していれば,会社法のもとでは,選任をもちろん,解任も普通決議できますから,見事,役員の取り替えが成功します。

 ところが,ゴリ江もんが,株式をあまり取得することができず,他方,葉玉は取引先である株主などを利用した多数派工作に成功し,臨時株主総会で,解任・選任議案が否決されました。

 このとき,初めて今日の本題の「解任の訴え」が登場します。

 解任の訴え(854)は,6ヶ月以上議決権の3%以上又は発行済み株式の3%以上を保有している株主に認められる少数株主権ですが,その要件として
a. 役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったこと
に加えて
b. 当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたこと
も要求されています。

 実は,このb.の要件がくせ者です。

 議決権の3%以上を持っている株主は,既に述べたように総会招集権も行使できるので,会社がその株主に「まず総会を開いてくれよ。」と言えば,総会招集権を行使するでしょう。

 ところが,今回,会社法で新設された「発行済株式総数の3%以上」の株式を保有しているだけの人(例えば,議決権制限株式を3%以上保有している株主)は,総会招集権がないので,誰か別の株主が総会を開いてくれて,解任議案を出してくれないと,解任の訴えを提起することができません。

 こうした問題を解決するため,解任の訴えを立案する時に,「無議決権株式の人は,株主総会がなくても,解任の訴えを提起できるようにするべきかな」と思ったのですが,「議決権3%以上の株主」は総会が必要なのに,無議決権株主は不要という不均衡が生じてしまうことになります。

 結局,その2種類の提訴権者のバランスを取るためには,総会で解任議案が否決されたという要件を廃止しなければなりません。
 しかし,さすがに「この要件をいきなり削るわけにもいかないだろう」と思い,触らぬ神にタタリなしとすることになりました。

 ところが,そういう判断をすると,もう一つバランスを取らなければならないことがありました。

 実は,取締役選任権付株式の種類株主総会で取締役を選任した場合には,種類株主総会で解任決議が否決されないと,解任の訴えを提起することができないというのが原則なのですが,現行商法では,「普通株式の株主は,種類株主総会が開けないので,種類株主総会における否決なしで,いきなり解任の訴えができる」という趣旨の規定があるのです。

 それで,「株主総会や種類株主総会を招集できない少数株主」をどうバランスよく扱えばいいのか,真剣に悩み,結局,現行商法の「種類株主総会の否決なしで,いきなり解任の訴えができる」という要件を削る方で調整を図ることになったのです。

 なんか,こう書いていると,私が「少数株主の敵」みたいですが,この判断の背景には,今回の会社法の改正で「解任が普通決議になった」という少数株主側に有利な事情が影響しています。

 例えば,ゴリ江もんが,臨時株主総会で解任議案を否決された後,解任の訴えが勝訴したとしましょう。

 取締役が全員解任されたのですから,臨時株主総会を開催して,新取締役を選任しなければいけません。

 ところが,ゴリ江もんが開催した臨時株主総会で繰り広げられるのは,「葉玉が多数派工作をして,葉玉達を取締役に再任する議案を提出し,それが可決される」という悪夢です。

 解任の訴えで解任されたからといって,それによって取締役の欠格事由になるわけではありません。

 したがって,ゴリ江もんが,株主総会で過半数をとれないと,結局,解任の訴えで勝っても何の意味もないのです。

 現行商法ならば,解任の決議要件が「特別決議」なので,
「ゴリ江もんが50%超の議決権を持っていたけど,67%には届かなかった。」
という場面で,解任の訴えは機能します。つまり,「解任議案が否決された後,ゴリ江もんは,解任の訴えで葉玉を解任し,その後の取締役の選任のための株主総会では,50%超の議決権を使って,自分を取締役に選任する」という場面が想定できるのです。

 会社法では,ごり江もんが,最初に50%超の議決権を持っていると,解任議案が可決されてしまいますので,「解任の訴え」の出る幕がないんです。

 もちろん監査役の解任要件は,現行商法と同様,特別決議ですので,そこでは解任の訴えの活躍の場はありますし,定款で,取締役の解任の決議要件を特別決議等にすることもあるでしょう。

 ただ,「取締役の解任」においては,解任の訴えの役割が著しく小さくなってしまったのは事実であり,「結局,取締役の選任決議のときに別の人を選べないような場合に,解任の訴えを認めても,あまり実益はない」という価値観から,上記のような制度設計になりました。

 ということで,ゴリ江もんは,自分が代表取締役になりたければ,がんばって50%超の議決権を取ることが必要だというのが結論なのですが,裏技としては,葉玉が会社の金をキャバクラ嬢に貢いでいるという記事を妻に見せることにより,葉玉が翌日くらいには,代表取締役を辞任し,退職金を妻に差し出さざるをえなくするという方法もあります。

2006年1月14日 (土)

取締役の違法行為の差し止め

 昨日は,株主権のうち,代表訴訟と合併無効の訴えをやりました。
 今日は,その続きで「取締役の違法行為差し止め請求権」について説明しましょう。

 商法時代から,株主が,取締役に対して監督を及ぼしていく手段はいろいろ用意されていますが,起源の違うものが混じり合って規定されているため,それぞれ微妙に性質が違っていて,会社法の法案を作るときも「うーっ,なんで,こんなに平仄があってないんだあ」とブツブツいいいながら,整理していました。

 株主による取締役の違法行為差し止め請求権(360条)は,今回の改正で,監査役のいない会社や会計監査権限しかない監査役しかいない会社については,監査役設置会社の監査役と同じ要件で行使できるようにしたので,ちょっとだけ注目されました。

具体的には,監査役のいない会社等では,取締役が法令定款に違反する行為をし,「著しい損害が生ずるおそれがあるとき」にこの権利を行使することができるようになりました。いわば,株主が監査役代わりをするわけです。
 他方,監査役設置会社や委員会設置会社では,監査役や監査委員が違法行為差し止め請求権を行使することができますから,株主は,会社に「回復することができない損害」が生ずるおそれがあるとき(同条3項)しか差し止められません。

 さて,この権利は,代表訴訟と同じく,アメリカからの輸入品であり,一般には,「取締役が法令・定款違反の行為をして損害を与えるような場合においては,会社は,取締役に対し違法行為の差し止めを求めることができるが,会社が取締役と馴れ合って,これを怠るおそれがあるから,少数株主に差し止め請求権を認めたものである」と説明されています。
 
 そのため,この差し止め訴訟については,代表訴訟と同じように,訴訟物は,「会社の取締役に対する差し止め請求権」とした上で,少数株主を「訴訟担当」とし,被告は取締役であると考えるのが通説です。

 ところが,この権利は
①会社に提訴請求しなくても,いきなり訴訟を提起できる。
②訴訟外でも行使できる
③代表訴訟のような管轄・訴訟参加・和解・原告が株主でなくなった場合等についての特則がない。
という点が代表訴訟と違っています。

 ①は,単なる手続きだからどうでもいいんですが,②を認めるとなると,代表訴訟と同じように「訴訟」の章で書くわけにもいかず,とりあえず現行法と同じように,株主に実体法上の差し止め請求権があるという前提で,360条で規定しました。

 このうち③については,管轄以外は代表訴訟の規定を類推適用する説が有力ですので,立案時に「きちんと準用したほうがいいかなあ」と思いましたが,いくつか気になる点があったので,やめました。

 一番,気になったのは,監査役による違法行為差し止め請求権(385)との関係です。

 監査役による差し止め請求権は,株主による差し止め請求権と同種のものと考えられていて,訴訟物は「会社の違法行為差し止め請求権」で,監査役は「訴訟担当」になると解するのが一般です。

 ところが,監査役は,会社と取締役との間の訴訟について,会社の代表権を有していますから(386条),本当に「会社が」取締役に対して違法行為差し止め請求権を持っているのなら,本来,監査役は,訴訟担当としてではなく,会社の代表者として訴えを提起できるはずです。

 実際に,会社の取締役に対する損害賠償請求権については,「A会社代表監査役B」という名義で提訴することになっていて,「監査役B」名義ではありません。

 そういうことを考えていると,株主や監査役の違法行為差し止め請求訴訟における訴訟物を「本当に『会社の』取締役に対する違法行為差し止め請求権と考えていいのだろうか」という不安がわいてきます。

 実際,明文のない「差し止め請求権」っていうのは,物上請求権である妨害予防請求権みたいに,誰も文句をいわないようなもの以外は,結構,きびしいんですね。
 不法行為に基づく差し止め請求権ということがよく言われますが,人格権侵害では認めてくれるものの,財産権侵害では否定するものが多いし・・・。

 一から制度を作るとすれば,「監査役の」違法行為差し止め請求権(380条)を規定するのではなく,同じ要件で,「会社の」違法行為差止請求権を規定して,監査役を代表者とすればよさそうですが,そうすると会社固有の違法行為差し止め請求権が「法令又は定款違反で」かつ「著しい損害が生ずるおそれがある場合」に限定されるので,もう少し広く解釈できる余地を残した方がよいようにも思います。

 また,386条は訴訟代表権に限られていて,監査役は,訴訟外での代表権を持っていないので,監査役の違法行為差し止め請求権は,少なくとも,訴訟外での行使をカバーするという点では意味はあります。

 ただ,この権利を監査役の固有の権限と考えないとすると,訴訟外での行使というのは,一種の債権者代位権のような位置づけになります(会社の機関としての権限行使だとするのならば,それは本来代表権の行使と位置づけなければならないはずです)。ここらへんが,いろんな国の制度を導入して,日本的に変更してきたという歴史を感じさせるところです。

 また,訴訟を考えると,やはり386条と380条の関係は気になるところであり,いろいろ文献を調べても,自信をもって,違法行為差し止め請求権と,民法の差し止め請求権や民事訴訟法との関係を整理することができなかったので,「触らぬ神にタタリなし」という結論にいきつき,ほぼ現行法どおりの規定になりました。

所詮,差し止め請求権というものは,本案訴訟で長々審理するものではなく,差し止めの仮処分の前提として「本案としての差し止め請求権が存在する」という点に最大の意味があるので,実務が,とりあえず回っていれば,それでいいわけですが,最近は,買収防衛策との関係で,株式分割や新株予約権の無償交付を使ったスキームが検討されていて,募集株式の引受人の募集に対する差し止め請求権が直接適用されない場合にどうするかという大きな問題があるため,もうちょっと取締役の違法行為差し止め請求権についても研究を進めてみたいところです。

2006年1月13日 (金)

代表訴訟等の原告適格

 責任追及等の訴え(代表訴訟)の原告が、株式交換等によって完全親会社の株主になったとしても、原告適格を失わなくなった(851条1項)という点は、会社法の目玉の一つです。

 この論点については、平成13年、私が民事局に来てまもなくのころ、大和銀行代表訴訟で大問題となり、故・原田審議官と「民事訴訟法でなんとかなるんじゃないかなあ」等と内輪で、こそこそと、真剣に、かつ、若干のんきに相談したという思い出があります。

 という訳で、美しい思い出に浸りつつ、今日は、代表訴訟と合併無効の訴えの2つの会社関係訴訟の「当事者適格」についてお話をしたいと思います。

 この2つの会社関係訴訟は、株主が原告となる点は共通であり、原告株主が、株式交換等で株式を失ったときに当事者適格を維持してあげたいという点も共通するのですが、その性質は、次のように全く異なっていて、同列には取り扱えません。

① 代表訴訟
(1) 株主は、訴訟担当(一定の資格を有する者で自己の名で他人のために訴訟の当事者となるもの)
(2)訴訟物は、会社の取締役等に対する損害賠償請求権(請求訴訟)

② 合併無効の訴え
(1) 株主は、通常の原告であり、訴訟担当ではない(会社は当事者となりえないので、「他人のために」当事者となるものではありません)
(2)訴訟物は、合併(の効力)(形成訴訟)

 そして、どちらの訴訟も、現行法では、原告株主が株式を失えば、原告適格を失うと言われているので、会社法は、その不備を補うため、それぞれの性質に応じて、次のような当事者適格の維持の手段を用意しました。

① 代表訴訟
 代表訴訟は、株主にとって、自己の権利と直接関係のない、会社の損害賠償請求権を請求するものですから、「会社のための訴訟活動」を託せる人は誰かという視点から、当事者適格を考える必要があります。

 しかも、二段階代表訴訟(親会社の株主が子会社の取締役に対して行う代表訴訟)は、原則として認めないという前提のもとで、例外的に当事者適格の継続を認めるということに決まっていたことから、会社法は、
 a. 原告株主が、株式交換、株式移転、合併を原因して株式を失ったこと
b. 原告株主が、完全親会社又は合併による新設会社若しくは承継会社の株主になること
を要件として、原告適格の継続を認めることになりました(851条)。

 そして、この851条1項は、2項と3項で準用されていて、原告株主が、当初の会社の完全親会社又は合併による新設会社若しくは承継会社の株主である限り、何回、株式交換・株式移転・合併が起ころうとも、原告適格を失わないこととされているのです。

 では、原告株主は、どんな場合に原告適格を失うのでしょうか。
 原告株主が、株式を全部売却したら、当然、原告適格を失いますが、それ以外にも次の場合があります。
 (1)株式交換・株式移転・合併の対価が、完全親会社等の株式でない場合には、原告適格を失う。
 (理由) 原告株主が、完全親会社等の株式を保有しなくなってしまった場合、代表訴訟で勝っても負けても、原告株主の財産には、何の影響も受けないような状態になってしまうので、原告株主が、当初の会社のために真摯に訴訟行為を行うことを担保する基礎(訴訟担当としての資格を認める基礎)がなくなる。

 (2)完全親会社が子会社の株式を譲渡してしまい、当初の会社が完全子会社ではなくなってしまった場合には、原告適格を失う。
 (理由) 原告株主の保有している株式の発行会社が、当初の会社の完全親会社でなくなってしまうと、代表訴訟の勝敗によって原告株主の保有している株式に生じる影響が低下・消滅するので、原告株主に訴訟担当としての資格を認める基礎がなくなる。

 (2)については、
「完全親会社が、子会社の代表訴訟を終了させるため、一株だけ他人に譲渡したらどうするんだ」
という指摘もあると思いますが、完全親会社化するために株式交換したのに、その状態を自ら崩すということは、合理的な理由がない限り、それを決断した親会社取締役の損害賠償責任が生ずると思われるので、そういうことは少ないだろうという読みです。

 また、(2)の場合、原告株主の株式に、一定限度の影響があるのだから原告適格を継続させてもよいのではないかと思う人がいるかもしれませんが、現行法の端株主に代表訴訟提起権が認められないように、どの範囲で原告適格を認めるかというのは、どうしても一定の線引きが必要であり、今回の立法では、明確性の見地から「完全親会社」という線引きをしたと思ってください。

② 合併無効の訴え
 合併無効の訴えには、代表訴訟における851条のような条文はありません。

 しかし、合併無効の訴えの原告適格は、828条2項7号で、「当該行為の効力が生じた日において吸収合併をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は吸収合併後存続する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは吸収合併について承認をしなかった債権者」と規定されているように、合併の効力発生日において、吸収合併をする会社(消滅会社及び存続会社)の株主であれば、その後に株主でなくなったとしても、「株主等であった者」として原告適格は有することになります。

 これは、合併無効の訴えは、会社に損害が生ずるような合併を無効にするという「会社の利益保護のための訴訟」という側面のほかに、保有株式を失ったり、保有株式の価値が低下した株主が「自己の利益保護のために行う訴訟」という別の側面があるからです。

 例えば、株主総会の承認決議のないまま、金銭を対価とする吸収合併が行われた場合、消滅会社の株主であった者は、存続会社の株主にはなれません。

 しかし、その者は、株主総会で承認もしていないのに、金銭で会社を追い出されたことに不満があるのですから、「合併は無効だ。俺の株式を返せ。」と、個人的な利益の保護ために合併の無効を主張することができるようにしてあげる必要があります。

 そこで、828条2項7号は、「効力発生日に株主等であった者」には、原告適格を認め、代表訴訟のように完全親会社や存続会社の株主であり続けることを要件とはしていないのです。

 ただし、効力発生日には株主ではなかったが、その後に、存続会社の株式を取得して株主になった者は、個人的利益の保護のためにではなく、「存続会社が消滅会社の隠れた債務まで存続してしまった」などと主張して、会社の利益のために合併無効の訴えを起こすことになりますから、そのような原告株主が、提訴後に株式を売却して株主ではなくなったら、原告適格を失うことになっています。

 以上のような合併無効の訴えの原告適格の考え方については、
「合併により一旦存続会社の株式を取得した後、株式を譲渡した者にまで、原告適格を認める必要はないのではないか」
という疑問があるかもしれません。

 しかし、合併対価が、株式以外の財産の場合には、原告がその財産を売却したからといって原告適格を失わせるわけにはいかず、合併無効判決が確定したときに、不当利得の問題として処理すると考えるしかない以上、対価が株式の場合も同様に考えるのが妥当だと思い、現在のような規律になりました(もちろん、対価が株式の場合には843条のことを考える必要があります)。

 会社関係訴訟は、理論的・実務的に難しい問題が多いのですが、似て非なる二つの制度を比べて見るのも、理解の助けになるのではないでしょうか?

2006年1月11日 (水)

目的の具体性

 会社法の成立以来の懸案であった「会社の目的における具体性が必要か」という点について、法務省でパブコメが始まりました。

http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI65/refer01.pdf

 現行商法でも、会社法でも、「定款の目的」については、明文の制限はされていませんが、会社の設立登記にあたっては、類似商号規制も一つの要因となって、「目的」が具体的なものでなければ、登記できないこととされていました。

 例えば、「株式会社 葉玉商店」という商号で、定款の目的を「商業」と登記してしまえば、同一市町村内は、あらゆる商業について「葉玉商店」という商号を登記できなくなるため、商号の独占力を強く認めすぎるということに配慮していたものです。

 もちろん、定款の記載内容や登記できる目的の個数に制限はないので、現行商法でも、具体的な目的を何百個、何千個と書けば、強い独占力を付与することができるわけですが、「事実上、そこまで煩雑なことはしないだろう」という性善説で運用がされてきたわけです。

 しかし、登記における「目的の具体性」の審査があるため、特に、目新しい事業を目的に記載したいときに、登記ができるかどうかが予測できないというデメリットもあったのも事実です。

 今回、会社法によって、類似商号規制は廃止され、商号の具体性を要求する根拠の一つが失われました。

 また、「目的」は、本来、会社の権利能力を制限する機能を有するはずなのですが、最高裁判例等により、ほとんど権利能力制限の機能が失われていることから、株主の保護という点からも、具体性を要求する実益は失われているような気がします。

 そこで、法務省で検討した結果、「具体性の審査はやめてしまったらいいんじゃないか」という一応の結論にいたり、今度のパブコメになった次第です。

 パブコメの結果次第では、「やはり具体性の審査が必要だ」となる可能性があり、まだ正式決定ではありませんので、賛成の方も、反対の方も、どしどしご意見をお寄せください。

 パブコメにも書かれていますが、「商業」という記載でもよいということなので、このパブコメの案が採用されれば、会社の設立登記をする際に「どんな目的だと受理してもらえるんだろう。」「分からないから、他の会社の登記を調べてみるか」等という悩みはなくなるはずです。

司法書士さんには、相当関心の高い事項で、私も解説会などで何度となく質問されたところですから、どんなパブコメが寄せられるのか楽しみです。

2006年1月10日 (火)

競業取引

 今日は、東大の神田先生や、NOT法律事務所の藤縄先生、経団連の久保田本部長と、敵対的買収に関するパネルディスカッションをしてきました。

 みなさん、非常に合理的かつ健全な思考をされる方であり、かつ、いろいろな経験をされてきた方なので、お話を聞いているだけでも大変面白く、楽しいディスカッションでした。
 主催者の承諾を得ていないので中身については多くを語れませんし、神田先生や藤縄先生という大御所と、木っ端役人の私が並んでしゃべったということ自体おこがましかったわけですが、先生方とお話をしていると、「やはり、法律家の感覚はみんな同じだなあ」と実感し、ちょっと嬉しくなりました。

 余談は、このへんにして、今日は、「競業取引」の範囲について、お話しをしたいと思います。

 論点<460>で、A社の取締役Hが、A社と同じホテルの経営等をしている会社の代表取締役に就任して、ホテル以外の事業の担当をする場合に競業取引の規制が働くかという問題について論じています。

 実は、この論点は、100問の747個の論点の中でも一番結論に迷いがあったところで、今、読み直しても「もう、ちょっと肯定か否定かどっちかに寄せたいな」と悩みが出てくるところです。

 悩みの原因は、取締役の競業避止の範囲が、支配人と比べると非常に緩やかであり、文言上も、現行法の立法経緯に考え見ても、株式会社の取締役が、同業他社の取締役に就任することは、競業取引にあたらないということが明らかだからです。
 
 個人的には、昭和56年改正前のように競業の許可が株主総会の決議事項になっているたときには競業取引の範囲を絞り込むことに実務上大きな意味があったものの、同改正で取締役会決議事項にしたんだったら、もう少し、広範囲に競業取引に該当させてもよかったんじゃないかなと思うところではありますが、こういうことは、様々な大人の事情があることもわかるので多くを言いますまい。

 そこで、私としては、開き直って「取締役に就任することも、代表取締役に就任し、ホテルの営業以外の取引をすることも競業取引に該当しないのだから、Hは、A社の取締役会における重要事項の開示も、承認も要しない。」と言い切るのが実は一番楽そうなのですが、いろんな文献を見ても、競業他社の代表取締役になるときに、「完全にフリーであり、何の規制もない」と言い切ってくれる人が見あたりません。

 それで、どうも踏ん切りがつかず、解答例でも、①代取には包括的代表権がある、②Hが取締役会において情報提供をしたり、議決権の行使によって業務執行の決定をし、それをもとに業務執行取締役がホテル事業に関する取引をする場合には協力して取引をしたことになりうるとか、理屈ないし屁理屈をこねて、「通常・・・A社の取締役会の承認が必要である」という玉虫色の記述をしてしまっているのです。


 「梨花に冠を正さず」という精神からすれば、競業他社の代表取締役に就任するときには、たとえ、具体的な競業取引をしないという約束で行く場合であっても、A社の取締役会で競業についての包括的承認を得ておくべきだと思いますし、実務的にもそうしていると思います(内規で法律よりも強い競業規制をかけているところも多いと思いますし)。それで、、純粋な法律論をふりかざして、「競業他社の代取に就任するときも、承認を得なくてよい」なんて言うのには、かなり抵抗感があるんでしょうね。

 私のバランス感覚では
①Hが取締役会で意見を述べるだけで、A社の取引先や顧客とは一切接触せず、単にA社の取締役として知っていた情報を同業他社の取締役会に提供しても、競業避止義務には違反しない
②Hが、A社の取引先や顧客と接触して営業活動を行ったが、契約は別の代表取締役が行ったという場合には、当該代表取締役と協力して競業取引を行ったものとして競業避止義務に違反する
というあたりが実定法の解釈の限界かなと思うのですが、本当のところ「①だってA社の取締役会の承認なしでやっていいのだろうか。」という感覚もあるんです。

 無責任なようですが、ここのところは本当によく分からないので、もう少し、検討してみたいなと思います。法律家や実務家の皆さんは、どんな感覚はお持ちなのでしょうか?

2006年1月 9日 (月)

今日明日ちょっとお休み

 昨年12月に「コーチング」の研修がありました。

 コーチングの一つの項目として,自分と上司・部下のタイプを知ることによって,よりよい人間関係を作るテクニックを身につけましょうという講義があり,下のアドレスに記載されているチェックシートで,自分のタイプの調査をしました。

 http://www.test.ne.jp/inventory/type_exp.html

 このテストでは,人の持っている性質を
・ 人や物事を支配していく「コントローラー・タイプ」
・ 人や物事を促進していく「プロモーター・タイプ」
・ 分析や戦略を立てていく「アナライザー・タイプ」
・ 全体を支持していく「サポーター・タイプ」
の4つのタイプに分けて,自分の中で,どのタイプが強いかをチェックします。

 で,その結果,私は,強烈なプロモータータイプと判明しました。

 プロモータータイプは,(私のいい加減な記憶によれば),
「自分しかできないようなことをやるのが好き。」
「他人の決めた仕事や,他人のやった仕事の続きをやるのが嫌い。」
「自分が大枠を作った後は,細かいところは人に任せたがる。」
「いろんな仕事をするのが好き。」
というタイプだそうです。

 後で冷静に見ると,このチェックシートは,必ず自分のタイプを指し示すようにうまく仕組まれているのですが,世間によくある心理テストよりは,自分を性格を客観的に分析できて面白かったので紹介します。

 ところで,なんで,こんな話をしているかというと,プロモータータイプの私としては,三連休用に,子供達が喜ぶようなオリジナリティーあふれる家族向けサービスを提供中なのですが,そのサービス提供のために,今日はとことん疲れたということを言いたかったからです(笑)。
 この疲れをとるために,今日・明日と記事をお休みさせていただきます。

 ただ,何も会社法のことを載せないと,「会社法であそぼ。」ではなくなってしまいますので,有価証券の対抗要件なんかについてまとめた一覧表を載せておきますね。
 現行商法では,株式,新株予約権,社債で,ばらばらだった譲渡や対抗要件に関する規律が,会社法で統一されたので,この表を見ながら適当に(笑)勉強してください。

 それにしても,平日の仕事は朝5時までやってもそんなに疲れないのに,休日の家族サービスは,夕方5時までやるだけで,なぜ,こんなに疲れるのでしょうか?

 それは,憲法でいうと「憲法の私人間適用」,刑法でいうと「法は家庭に入らず」というところで勉強するところです。

 どこの家族にも,いわゆる「権力者」が存在しますが,葉玉家においては,権力者の命令には逆らうことができず,苦役だろうと,残虐な刑罰であろうと,そのまま受け入れなければならないという絶対王政が採用されています。

 権力者ではない私は,せめて人権規定について間接適用説を採りたいものの,葉玉家では,不適用説が定説です。司法的救済は一切なく,不利益処分が行われる場合も,質問や弁明の機会は与えられません。

 プロモータータイプの私としては,企画立案や大枠だけは喜んで決めるので,「細かいところは,適当にやっといてね」とか言いたいのですが,結局は,細かいところも全部やらされるのでヘトヘトになるんですねえ。

 では,皆さん,また火曜日にお会いしましょう。

有価証券

有価証券

2006年1月 7日 (土)

基準日

 省令の詰めやら,新しい本の執筆やら,子供の勉強やら,ポケモンの映画やら,何かと時間が足りません。でも,足りないなりに何とか綱渡りで回して,ブログもやっているという現状です。その中で機能のADSL不通事件は,大打撃でした・・。
今日,SOFTBANK BBに電話して復旧してホッ。
 私は,かれこれ20年前パソコン通信をしていて,NIFTYの会員数も当時はまだ全国10万人いなかったと思います。そのころの通信は,たしか300bps。3メガじゃないですよ。三百。つまり,今の光の1ギガから比べると,333万分の1のスピードで通信してたわけです。「画面を見ていると,ネットから文字が流れてくるのが見える」というくらい情緒豊かな時代でした。あのころは,それだけで楽しかったのですが,今は,64Kモデムでも「この野郎」とパソコンを投げつけたくなるので,心の余裕がなくなったのかも(笑)。ホームページに文字以外の情報がいたるところに入り込んでいることをつくづく感じました。

 ところで,日経新聞社から「乗っ取り屋と用心棒」(三宅伸吾著)という本が最近出て,その中で私が実名で登場してます。ちなみに,私は風貌は「乗っ取り屋風」ですが,乗っ取り屋でも用心棒でもない役で登場します(笑)。
 ライブドアをはじめ昨年話題になったM&Aについて,よく取材されているなと感心しましたし,面白かったです。大手事務所の弁護士さんや,裁判官,大学の先生など全部実名で登場していて,それぞれの仕事がよく分かるので,会社法に興味のある方にはおすすめの本です。

 さて,本題に入りましょう。今日は,基準日の話です。

 基準日については,
① 会社の判断によって,基準日後に株式を取得した者にも議決権を行使させることができるようにした(124条4項)。
② 株式分割等の割当日や中間配当をする株主の決定日等現行法では,「基準日」とは違う概念として捉えられていたものを,すべて基準日に統一した。
というところが,大きな改正点です。

 この基準日に関しては
「基準日において株主名簿に記載されていなかった者に,議決権や剰余金の配当請求権を認めることができるか」
という論点があります(論点<277>)。

この問題は,現行法でも,失念株や株主平等の問題と絡んで,頭が混乱するところですので,まず,分析の仕方を話します。
視点は,「その株主が,基準日に株主名簿に記載されていない原因は何か?」ということです。
 その株主が,基準日に株主名簿に記載されていなかったのは・・・

1 株式が,まだ発行されていなかったからである
↓ ↓YES
↓NO 124条4項の問題・・議決権のみ

2 その株主が,まだ株式を譲り受けていなかったからである。
↓ ↓YES
↓NO 124条4項但書の問題・・・議決権のみ

3 その株主は,いわゆる失念株主(基準日において株式を取得していたが,名簿書換をしていなかったので,会社に対抗することができない株主)
 →株主名簿は対抗要件に過ぎないので,会社側から株主と認めることは可能・・議決権も剰余金の配当も可能
 *1,2,3いずれの場合も,株主平等を考える必要がある。

この分析をベースに下の事例を見てみましょう。

<株券番号1 失念株>
【原則】
 基準日における株主名簿上の株主は、Aなので、Bは会社に対抗することができない。したがって、会社は、Aを権利行使者とするのが原則(130Ⅰ,124Ⅰ)。
【例外】
会社が対抗要件を主張せずに、基準日における株主をBとして権利行使者とすることも可能(基準日後の株式取得ではないので、124Ⅳの問題ではない)
ただ,B以外の失念株主との平等を図る必要がある。

<株券番号2 基準日後の譲渡>
【原則】
基準日における株主はAである。Aを株主として取り扱われるのが原則(124Ⅰ)。
【例外】
基準日株主Aの権利の保護のため、Aの承諾がなければ,基準日後に株式を取得したCを権利行使者と定めることはできない(124Ⅳ但)が,Aの承諾があれば,議決権のみ行使させることができる(124Ⅳ)

<株券番号3 基準日後の新株発行>
【原則】
基準日における株主はいない。会社は、権利行使者を定めないのが原則。
【例外】
会社は、基準日後に株式を取得したDを権利行使者と定めることができる(124Ⅳ)

<株券番号4,5 基準日後の新株発行と平等>
【原則】
 基準日における株主はいない。
 会社は、権利行使者を定めないのが原則
なお、会社がDを権利行使者として定める(124Ⅳ)場合であっても、必ずしもE,Fを権利行使者と定める必用はない。なぜなら,124条4項は、取得者の「一部」のみを権利行使者と定めることを認めているからである。
【例外】
 会社は、基準日後に株式を取得したE,Fを権利行使者と定めることができる(124Ⅳ)。
 しかし、Eを権利行使者と定めるのに、Fは権利行使者としないということは許されない。124条4項は、取得者の「一部」のみを権利行使者と定めることを認めているが、同一の機会に取得した者の不合理な差別は認められない。

似たような事例ですが,微妙に適用条文が違ったり,要件が違ったりするので,頭を整理しておくと良いでしょう。

基準日の事例

基準日の図

間接損害

今日は、なぜかプロバイダにつながらず、やむなくモデムでアクセスしています。
久しぶりの64Kモデムは、遅い・・・が、がんばります。

取締役の第三者に対する責任を定める429条1項の「損害」については、遠い昔から、①「損害」に間接損害を含むか、②「第三者」に株主を含むか、という論点があります。

 429条1項は、現行商法の266条の3を現代語化しただけなので、最高裁昭和四四年一一月二六日大法廷判決は生きていて、会社法でも「損害には間接損害を含む。」という結論に変更はないと思います。

ただ、この最高裁判例が出た後も、東京地裁では、「株主」が商法266条の3の責任を追及した場面で、間接損害否定説を採った判例があり、学説でも、株主については間接損害を否定する(直接損害のみ肯定する)という解釈が有力です。

でも、私は、株主に対する間接損害も含まれると解するのが、前記最高裁判例にも、会社法の規定にも合致すると考えていて、100問の論点<231>でも、そういう論証をしています。

この株主の間接損害についての争いのポイントは
1 株主に間接損害の賠償を認めることにより、当該株主が、会社債権者や他の株主を出し抜くことをどう考えるか(早い者勝ちでよいのか)
2 株主の損害とは何か
という2点です。

1の点について
 平成8年6月20日の東京地裁判決は、「株主への直接賠償を認めることは、利益配当等によらず株主への会社財産の分配を認めるに等しいから、資本維持の原則に反し許されないのである(株主への直接賠償を認めた場合、これが履行されれば、二重払いを正当化する根拠は見い出し難いから、取締役は免責されざるを得ない)。」ということを理由として、株主については間接損害の賠償は認められないと判示しています。つまり、株主が債権者を出し抜くことが不当であると言っているわけです。

 しかし、この理由付けについては、
① 「じゃあ、配当可能利益の範囲内であれば、株主の間接損害の賠償を認めていいんじゃないですか?」とか
② 「債権者による間接損害の賠償を認めた最高裁判決に立つと、株式会社が倒産手続に入った後に、本来、会社債権者全員への弁済財源に組み入れられるべき取締役に対する損害賠償請求権について、特定の債権者が出し抜くことになりますよ。倒産手続における債権者間の平等はないがしろにしていいけど、資本維持の原則はないがしろにしてはいけないというのは、どういう理屈ですか。」とか
いろいろ言いたくなってしまいます。

 当該具体的事案を見ると、間接損害を否定したい気持ちがわからんではないのですが、個人の損害賠償と利益配当を同視するというのは、全然、意味が分かりませんし、債権者が、債権を保全したければ、会社の取締役に対する損害賠償請求権を代位行使して、訴訟を提起すればいいだけです。
 また、株主に対して損害賠償がされると、会社の損害賠償請求権も消滅するという関係に立つと仮定しても(この点については2で詳しく述べます)、株主に対する損害賠償を一切否定するのではなく、株主にも、会社にも損害賠償請求権を認めた上で、後は、株主・会社間の利益調整の問題にすればよいだけです。

 判例とは異なる立場として、株主間の平等を根拠に、株主による間接損害の請求を否定する見解もあります。

 しかし、大株主である代表取締役が利益相反取引をして会社に損害を負わせたときに、少数派株主が「会社に金を返せ」と言ったって、何の意味もありません。その代表取締役は、判決をもらっても執行しませんし、一旦、会社に損害を賠償しても、また、利益相反取引するだけでしょう。株主間接損害否定説は、代表訴訟を過信してます。

 また、私のように株主間接損害肯定説では、株主は、誰でも平等に429条1項の請求をすることができるわけですから、株主間の平等は問題になりません。合理的な株主ならば、代表訴訟をせずに、429条1項で請求するでしょう。

 ということで、私は、1の点について、否定説の理由付けに全然共感を覚えません。

2について
 間接損害の問題で、一番気持ち悪いのは、「間接損害」とは何かが、ちっとも分からないことです。

 株主の損害は、一言で言えば「株価の下落」です。

 間接損害論を支えているのは、株価の算定方法として、「純資産方式」的な考えを採り、会社が取締役から損害賠償を受ければ、会社の資産が元に戻るから、株価も回復するという幻想です。

 株主の損害としての株価の算定方式について、純資産方式が正当化できる場合は極めて限られています。
 例えば、清算予定の会社で、代表取締役が清算する直前に会社資産を着服したというのならば、代表取締役から会社資産を取り戻すことが、純資産方式をベースにした株価の回復につながるということもあるかもしれません。

 しかし、それ以外の場合、上場株式であれば、市場価格が株価になりますから、株価下落後に、会社の資産がどれだけ回復しても、それが直接株価に反映されることはありません。

 また、非上場株式であったとしても、①純資産方式のほか、②類似業種比準方式、③収益還元方式など様々な算定方法があり、これらを併用して、株価が算定されるのが通常です。
 ①以外は、会社資産が完全に回復した場合でも、株価は完全には回復しないので、「会社資産の回復=株価の回復=株主に損害なし」という図式そのものが、間違っています。

 もちろん、株主間接損害否定説に立ちつつ、「会社資産が回復しても、株価が回復しない場合は、その部分については、直接損害で損害賠償は可能である」という立論は可能でしょう。

 しかし、株価の算定方式を変えると、株価の一部分が、損害として認められたり、認められなかったりするというのは不合理です(上場会社なら株価の下落分は全部直接損害になるのに、非上場会社だと株価下落分の一部が間接損害になるとか、考えるのでしょうか?)。

 私が、一番懸念するのは、、間接損害概念が不明確性であるため、否定説では、必要以上に株主の損害回復を困難にすることです。429条1項は、取締役が任務懈怠したことが前提ですから、株主に損害が生じた場合には、通常、会社にも損害賠償請求権が生じています。直接損害と間接損害の区別が不明確なまま「株主の間接損害は駄目」という結論をとれば、本来、直接損害すら損害賠償請求をするのが難しくなるのではないでしょうか。

 ということで、私は、最高裁のいうように、直接とか間接とか無用な区別をせずに、株価の下落分を株主の損害と考えて、後は、取締役の任務懈怠との相当因果関係だけを問題にするべきだと考えているわけです。

今日の話は、会社法改正とはあまり関係ありませんが、試験的にも、実務的にも、重要論点なのでついつい長く書いてしまいました。

2006年1月 6日 (金)

名義説と計算説

 356条1項1号(競業避止)と2号(利益相反取引の禁止)には、「自己又は第三者ために」という文言が出てきます。
 この二つの「ために」の意義については、「名義説」と「計算説」の対立があり、私は、論点<451>(競業取引)、<453>(利益相反取引)で書いたように名義説を採っています。

 改正前の商法では計算説が通説だったので、356条を立案するとき、「計算説が正しいなら、120条1項のように「計算において」と書くべきかな」と検討したことがありました。

 しかし、「どうも会社法の規律を前提とすると、計算説の合理性が失われたかなあ」と感じて、現行法と同じ「ために」という文言を使うことにしたので、この規定は、わりと印象に残っているのです。

 今日は、なぜ計算説の合理性が失われたと感じたのかをお話しします。

 なお、この二つ「のため」には、現行法では条がお隣り、会社法では号がお隣りということで、何かと一緒にされるものの、競業取引と利益相反取引は、取引形態も、改正経緯も全然違いますから、分けて書きます。

1 競業取引
 競業取引は、取締役が、お客さんを相手に会社の事業と同種の取引をするときに問題になる規定です。

 現行商法で計算説があげる最も有力な論拠は、「取締役が『自己のために』競業取引をした場合にのみ介入権が認められるが、介入権の趣旨は、取締役から競業によって得た経済的利益を奪うことにあるのだから、名義がどうであれ、取締役に競業取引による経済的利益が帰属しているのならば、介入権を認めるべきである」というところにありました。

 ところが、会社法は、効果が不明確である介入権を廃止したので、会社法で計算説を採るのならば、別の論拠を探す必要があります。

 そこで、私は、計算説の論拠があるかどうかを考えてみました。

 取締役が競業取引をする場合の名義として考えられるのは、①「会社」②「自己」③「第三者(自己でも会社でもない者)」の3つであり、名義によって、法律上の効果の帰属主体が異なります(名義というのは、誰に法律効果を帰属させるかということを相手方に知らせるための概念です。民法の代理で勉強する「顕名」というのは、「名義を顕らかにする」ということですね)。

 そして、競業取引は、「自己又は第三者のために」競業をすると成立しますので、名義説と計算説の違いがあるとすれば、
 ①取締役が、会社名義で、しかし、自己の計算で競業取引をした場合
 ②取締役が、自己又は第三者の名義で、しかし、会社の計算で競業取引をした場合
の2つの場合に限られます。

 そこで、まず①について検討すると、①っていうのは、「取締役が会社名義で、例えば、A株式会社代表取締役B名義で契約を行うときに、代表取締役Bが、その契約によって得た利益を自分のものにしようと考えている」という、いわゆる「代表権の濫用」の事例そのものです。

 とすると、「計算説に立つと、代表権の濫用を、競業避止義務違反で処理するのか?」という疑問が沸いてくるのですが、きっと計算説の人も、そんな結論は採らないでしょう(競業避止義務違反の行為は「有効」になっちゃいますし・・・)。

 ということで、「会社名義、自己の計算」の競業取引という概念は考えられず、①の局面で、計算説を採る実益はないと思います。

 次に、②は、計算説に立つと、競業取引には当たらないことになりますが、取締役名義で競業取引をして、法的効果もすべて取締役に帰属しているのに、取締役会で事前の説明もしなくてもいいし、会社の承認もいらない、事後報告も不要という結論は、取締役の行為規範として不当です。
 ということで、②の点についても、計算説を採るのよろしくありません。

 以上に対し、名義説ならば、計算説のような不都合は生じませんし、356条1項1号を適用するための要件としても明確ですので、私は、名義説が妥当だと判断しました。
 その結果、同号では、民法の代理の規定と同様、「名義」という意味で「ために」という文言を使うことにしたわけです。

2 利益相反取引

 356条1項2号の利益相反取引(直接取引)は、株式会社が、取締役と取引をする形態です。

 この利益相反取引について、改正前商法で計算説が通説だったのは、昭和56年改正前までは、間接取引の明文規定(会社法356条1項3号に相当する規定)がなかったということが、一番大きな理由だったと思います。

 つまり、株式会社の取引の相手方が取締役ではない場合であっても、その取引による利益が取締役に帰属するようなときは、利益相反取引に該当させたいので、「計算説」を採っていたのです。

 しかし、昭和56年改正で、間接取引(株式会社の取引の相手方が取締役ではない場合)の明文規定が入ってしまったので、それまで計算説が担っていた役割は、間接取引の規定で、まかなえるようになってしまいました。

 そのため、正直言って、現行商法でも、計算説を採るメリットはなく、せいぜい競業取引における計算説(こちらは、現行商法では計算説を採るメリットがある)との平仄上、計算説が生き残っているのではないかと思います。

 この点、私の敬愛する前田庸先生の会社法第9版(318頁)には「A会社の代表取締役甲がA会社名義、しかし甲自身の計算で乙から借入をし、A会社がその債務に担保を提供した場合」に計算説を採るメリットがあるという趣旨の記述があります。
 該当部分を読む限り、前田先生は、「A会社の乙に対する担保提供行為」は、実質的には、甲の債務を担保するためのものであるから、「会社名義、しかし、自己の計算」の利益相反取引であると考えられていらっしゃるようです。

 しかし、A会社の担保提供の相手方は乙(取締役以外の者)ですから、私は、その設例は、間接取引(取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき間接取引・会社法356条1項3号)に該当すると考えます。
 したがって、その設例は、直接取引(356条1項2号)について計算説を採用する根拠にはならないと思いますし、むしろ、計算説を採ると、直接取引と間接取引の区別が曖昧になるという難点を感じます(特に428条が、自己のためにした直接取引についてのみ、無過失責任としているので、間接取引とのデマケを明確にする必要があります)。

 また、356条2項が「民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号の取引については、適用しない。」と規定していることからすれば、2号の「自己又は第三者のために」は、民法108条と同じ場合、つまり、「自己又は第三者の名義で」会社と取引をした場合を指すと解するのが素直でしょう。

 ということで、利益相反取引の直接取引についても名義説が妥当であるという結論に至り、356条1項2号についても、「ために」という文言が使われることになったわけです。

 「ために」については、現行商法と同じ文言を使っているので、単にひらがなにしただけのように受け止められがちですが、立案をするときは、いろいろ考えているんだよという一例です。

 もちろん、計算説は、会社法の解釈としても採用可能だと思います。例えば、先に述べた428条を根拠に計算説を採るということもありうるかなあとも思うのです(それだけで計算説の難点が克服できるわけではありませんが)。今後、計算説を採る方の著書や論文が出そろってくれば、またこの論点について検討したいところです。

2006年1月 4日 (水)

利益相反取引

 明けましておめでとうございます。
 昨日、洞爺湖は大吹雪で、高速道路は閉鎖、電車は不通という状態でありましたが、なんとか東京に戻ってこれました。
 洞爺湖の某ホテルで温泉に入っていたところ、いきなり見知らぬ人から「葉玉先生でしょう。講演会を聞きました。」と話しかけられ、少しビビリました。
 家族と来てたから良かったものの、そうでなかったら、もっとビビッたかも知れません(笑)。

 さて、正月早々、誤解を生む巻頭言を書いてしまい、「妻には見せられないな」と思いつつも、早速、会社法の話をやりましょう。
 利益相反取引に関する「取締役」の解釈について、公認会計士受験生さんから、次のような質問がありました。
【質問】
423条3項1号・2号の捉え方が某校TとAで割れて分からないので、教えていただけないでしょうか。
1号の取締役を,T校では、会社と利益相反取引を行う取締役と当該取引の会社業務を執行した取締役(代表取締役又は場合により使用人兼取締役)の両者とし、A校では、会社と利益相反取引を行う取締役のみとし
また
2号の取締役を両校ともに代表取締役としたのですが、2号の解釈を、T校は,通常、代表取締役は業務を執行するため一号の取締役に当たるが、当該利益相反取引に関する業務執行を他の使用人兼取締に指示した場合には1号を適用できないため別にわざわざ規定したとしているのに対し、A校は,当該業務執行権有る者と捉え、代表取締役(代表権が無い業務執行取締役も含むかどうかは分かりません)としています。(因みにA校においては使用人兼取締役は1・2号の取締役には当たりません。)
【答】
 問題の423条1項1号については「業務執行取締役」が含まれるかどうかに争いがあるみたいですね。
 そこで、条文を見てみますと、
「第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役」
となっていますから、356条1項の「取締役」が何かが分かれば、答えがでるわけです。

 356条1項は、取締役に事前の開示義務及び承認を得る義務を課す規定であり(取締役の忠実義務の具体化であるといわれることもあります)、そこでいう「取締役」は、二号で「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。」と規定されているとおり、株式会社の取引の相手方となる取締役(当該取締役が第三者のために取引をする場合も含む)のことをいい、三号の間接取引の場合は間接取引の利益の帰属主体となる「取締役」となります。

 ということで、356条1項には、「業務執行取締役」も「代表取締役」も出てきませんので、423条1項1号の「取締役」には、会社側の取締役は含まれません。

 次に、423条1項2号の「株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役」はどうでしょうか。
 ここの「取締役」は、利益相反取引における株式会社側の取締役であることは明らかですが、「決定」とは、どんなことを意味するのでしょう?

 株式会社が取締役との間で利益相反取引をする場合には、会社に効果を帰属させるために、「代表取締役」が行う場合と「代理人(例えば、支配人)である取締役」が行う場合(無権代理人である取締役が行う場合を含む)が考えられます。
 いずれの場合であっても、その利益相反取引に該当する契約は、代表者・代理人がその内容を決定し、その効果が会社に帰属すると考えるのが、「代表」「代理」の理論の神髄ですから、代表取締役・代理人である取締役(無権代理の場合も含む)は、「決定した取締役」に該当します。

 また、業務執行取締役として契約の内容の決定を行った取締役や非取締役会設置会社における取締役で業務執行の決定をした取締役も、「決定をした取締役」に含まれます。

 もちろん、これらの行為に、取締役会・株主総会の『承認』は必要ですが、承認というのは、他で「決定」したことを「承認」するという概念ですから、「その契約の決定を行ったのが代表取締役・代理人である取締役である」ということと、「取締役会・株主総会の承認が必要である」ということは、矛盾するものではありません。

 そして、このように決定と承認は、異なる概念であることから、決定はしていないが、承認決議に賛成した取締役は、423条3項3号でフォローしているわけです。

 ということで、公認会計士受験生さんの記述を前提とすると、AもTも、ちょっと誤解があるような感じです。

 なお、取締役会設置会社については、365条2項において
「取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。」
という規律があります。
 ここでいう「取引をした取締役」は、
①直接取引では、利益相反取引の相手方である取締役+会社側の代表取締役・代理人である取締役
②間接取引では、会社側の代表取締役・代理人である取締役
を指します。
 
 事後報告についてのポイントは2つあり、
①事後報告は、事前報告のように利益を得る取締役の忠実義務の表れではなく、取締役会等の承認決議に従って取引が行われたか等をチェックするための報告義務なので、会社側で取引を担当した取締役にも報告義務が課されている(代表取締役や代理人である取締役は、当該株式会社のために「取引をした取締役」に該当する)
②間接取引の利益帰属主体である取締役は、会社と取引をしていないので、取引の有無やその内容が分からない場合もあるから、事後報告義務はない。
という点です。

 ②については、間接取引の利益帰属主体である取締役は、事前の報告義務があるのに、なぜ事後報告はないのか、不思議に思うかもしれません。
 これは、
・ 事前報告は、承認を得なければならないという規律とワンパックになっており、間接取引の利益帰属主体である取締役が、当該間接取引について全く知らない場合であっても、承認のない会社の行為を無効とする必要がある
・事後報告は、そのような事情がなく、実際に行われた取引の具体的内容のチェックをするための規律なので、取引の内容を確実に知っている取締役に報告をさせるのが適切である
という理由によるものです。

利益相反取引は、現行法の規定自体があいまいであり、会社法は、それを少し改善したつもりでしたが、誤解を生んでいるとすれば少々残念なところです。条文に該当するかどうかを、素直に当てはめてみると以上のような解釈になりますので、参考にしてください。

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